シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「――…で、何で俺…蛆?」
「今更かい!!」
牛女の突っ込み、何だか遠坂を思い出しちまったけれど。
「俺…今も人間の格好してると思ってたけど、もしかしてお前達には蛆に見えるのか?」
正常のような幻覚に苛まれた自意識を持っているのではないかと…ふと、そんな恐ろしいことを考えちまった俺は、恐る恐る尋ねてみた。
「ふふん、賢い僕は最初から気づいていたね!! お前は愚鈍だから気づかなかっただけさ!!」
思わず涙目になってその他大勢…特に俺が最も信頼する幼馴染を見てみれば、櫂も他の奴同様…頭をぶんぶんと横に振っていた。
だから俺は……
「俺の心の痛み、直接感じやがれ!!」
両手の指で、更にWのデコピン攻撃。
トリプルを越えた大技に、チビはばたりと頭の上で倒れたようだ。
そんな時だった。
「ほぉ~」
溜息のような、感嘆の声が上がったのは。
何だ?
この忍者達、俺に熱視線向けて、何で歓声を上げた?
何処にそんな要素あった?
耳をすましてみた。
「おォウジガミ様がリスとお戯レニになっテイル…」
「微笑まシイ。サすガはウジガミ様だ…」
………。
そして俺は――。
「今度はリスを手にのせテ、アノ金色に胡桃をもッテこさセタぞ」
「あレハさるノ式のハズ。あレヲモ使役するトハさスがウジガミ様」
「見てミヨ、ウジガミ様はリスを生き返らセタ」
「あノリスの顔。ウジガミ様が与エタ幸せニ酔いシレておル」
………。
だから俺は――。
「何だよ、ワンコ。え? 腕相撲? 今、此処で?」
「オォ。今度はサルと戯れて」
「種族を超えた調和を図るとは流石はウジガミ様」
………。
俺の一挙一動が、何でそんなに好意的?
先刻までは反発ばかりしていた奴らが、何でそんなに受動的?
俺は思わず櫂を見た。
櫂は首筋に手をあてたまま、肩を竦めて愉快そうに笑う。
いつも、賞賛の道を歩む櫂は、こんな居心地悪い思いをしていたんだろうか。
俺があっち向けば「ほぉ~」。
こっち向いても「ほぉ~」。
手を上げても、頭を掻いても…
「さすがはウジガミ様だ」
………。
だから、ウジガミって何よ。
判らないなりにも、そこまで威力持つ肩書きだというのなら、駄目元で利用してみるか。
「なあ、櫂を信用してくれよ」
何度言ったかこの台詞。
その度に撥ね付けられてきたんだ。
相容れない存在に、何が判るかと。
しかし蛆が、奴らにとって相容れる存在なのだとしたら?
「ウジガミ様がそんナニ言うのナら…」
「ウジガミ様が信ジルのなら、信ジテみようカ」
「ウジガミ様が従ってイルノナら、我らも従おウカ…」
……!!!
俺は小猿と櫂と目を合せて、予想以上の満足の出来に破顔した。
すっげぇ!!!
すっげえぞ、蛆。
人間の言葉では通じなかったのに、蛆の言葉なら通じるって!!?
蛆様万歳!!!
だけど、何で蛆が効果あるんだ?
「忙しい奴だね、あんたも……」
牛女がぼそりと呟いた。