シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


だけど――俺だって判っている。


今、皆が櫂を信じようとしてくれたのは、櫂や俺達の言葉を信じたわけではなく、"蛆"の力だってことには。

どんなに必死になって頭下げて訴えても聞き入れなかった奴らは、肩書き1つで従順になる。


それは…根本的な解決になるんだろうか。

第一櫂は、疎外された世界があることに心を痛めて、共に歩める世界作りを提案したというのに、このままだったら…櫂の心がまるで奴らに伝わらないって事じゃねえか?


それは…、それだけは…。


「伝わっておる」


そう答えたのは、まだ袖を下ろしている途中のこけしで。


「最初から伝わっているんだよ。全員に」


同調したのは…こけしの上に、やはり乳を置かねえと落ち着かねえらしい牛女で。

2人はにやりとした、そっくりな笑いを顔に浮かべていた。


「は? だってお前等……」


牛女が言った。


「言えるわけ…ないじゃないか。どの面下げて、"ずっと待っていました、そう言って導いてくれる人が現われるのを"なんてさ。

此処に来た早々、しかも"排除"しようとしていた私達に…突然調和を言い出したあんた達に、皆が疑念を持ったのは事実だろうよ。ありえないだろうさ、出会ったばかりの敵に情けをかけるなんて。少なくとも"表"のとる動きじゃないし。しかも私達は、表からは唾棄された身形だ。

だから…その言葉を信じるに価する人柄かどうかを見極めたくて、何度も何度も…あんた達の頭下げさせた。赤い薔薇を持つ奴が居たとは驚きだったけれどね。おばあちゃんは知っていたみたいだけれどさ。

あんた達は…力によって私達を従わせようとしせず、武器を捨て…自らの矜持を捨ててまで言葉で説得してきたよね。あれが決定的だったね。力を捨て、矜持を捨てたらその先には何が出て来る?

弱くも見える…裸の心だろうさ。それこそが、私達が見たかった真情だ。ようやくそこで"表"と"裏"が、同じ土俵に立ったんだ」


牛女は、満足そうに笑った。
 

「私達だって鬼じゃない。表の奴らとは違うんだ。どんな身体をしていても、ちゃんと胸の中には心がある。私達にだって、何が本当で何が偽りかくらい、判断出来る心があるんだ。裸の心を見せられたら、裸の心を返すのが道理だろうさ」


「だったら、それを早く言えよ!!」

「私達にも矜持があるんだよ。人間としてのね。だからどう収拾するかと思いきや、おばあちゃんが…こんな隠し爆弾投げるとはさ。驚き反面…ほっとしているのが正直な処さ」


あ?


「建前が…必要だと言うことだよ」


玲の声でそう言ったのは、頭の上から真っ逆様に俺の顔を覗き込んできたチビ。

くりくりと目を動かす様が、必要以上の聡さを強調させているように思えた。
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