シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「黒き薔薇の刻印を持つ者は、ウジガミを抑える力がある…言わば闇の同盟者。妾達はウジガミを根気よく育てるつもりだった。だがしかし」
こけしは目を細めた。
「此処から逃げたそなたは、外界から戻らぬこととなった」
多分直後とっつかまって、雑司ヶ谷で制裁者(アリス)訓練されていたんだろう。
その後は神崎街道一直線。
「もう1つの予言というのは?」
櫂が怜悧な瞳をこけしに向ける。
どうしたんだ?
櫂のこの…思い詰めたような翳った顔は。
俺のことを言われているというのに、まるで他人事のようにのほほんと聞いている俺に対し、櫂は当事者以上に言葉を重く捉えているようだ。
「ウジガミは…赤と黒の鎖によって制され、此の世界に戻ると」
こけしの言葉に、櫂は静かに嗤った。
「待っていたわけか。ひたすら…煌の帰りを」
否定しない場の空気に、正直俺は困惑した。
「ちょっと待て!! 俺に期待してるなら幻想を捨ててくれ!! 俺、救世主みたいな力なんてこれっぽっちもねえ馬鹿だから!! 俺より櫂の方が何千倍も神だから!! ……つーか、櫂。お前スルーしてねえか? 赤と黒の鎖って何よ?」
むしろ突っ込む処は、そっちじゃねえか。
そう慌てて付け加えた俺に、櫂は自嘲気な笑いを見せる。
「俺だ」
「は?」
「赤き薔薇と黒き薔薇。両刻印を持つ俺が、煌を制してこの世界に連れると…そういうことだろう?」
櫂の顔から笑みが引き、そこに残されているものは…哀しみ。
何で哀しみ?
「だから俺を信じると…そういうことか?」
周りが、櫂より愚鈍な俺に期待していることが哀しいのか?
…違うと思った。
櫂はそんな奴じゃねえ。
どんな俺だろうと櫂は笑って、自信を持てと俺の背中を押す奴だ。
だとしたら一体?
「いや…ウジガミは付加的要素にしかすぎぬ。妾達は、此の世界に閉じ込められた者。此処から開放されるのなら、それがウジガミでも人間でも、どちらでもいいのだ。ただ暗闇の最中に、心の灯火となったウジガミの存在は大きい。その名の効果は、そなたが思う以上にあるのだ」
つまり肩書きだけが一人歩きしているということで。
しかし櫂の顔は晴れなかった。
何か納得してねえっていう顔付きで。