シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



そんな時、忍者の1人がこけしの元に歩み出た。


「夢路様。アレが…参る時間デス」


アレ?


「そうか、ならば暫くは外は出られぬ。皆の者、中に入る」


こけしは高らかにそう叫ぶと、パチンと指を鳴らした。

村落のような景色は消え、代わって見えたのは――


「「何だ此処!!!」」


俺と小猿が同時に叫んだ。

さすがの櫂も言葉を失っている。


何故なら、この風景は――


「妾達はそなた達を受入れた。最早幻覚は必要ない。さあついてまいれ」


様々な色が点滅する建物が建ち並ぶ…東京都心のような風景だったから。

高層ビルが建ち並ぶ新宿とかに似てはいるけれど、エコだとか言って節電オンリーの風潮になった俺の知る新宿とは違い、電飾使用の派手派手しさはこちらの方が一枚上手だ。

贅沢な電気力を使っている分、近未来を見ているような錯覚も覚えてくるが、別に宙に空飛ぶ乗り物が飛んでいたり、宙に浮く遊歩道があるわけでもねえ。

移動手段は足しかないようで、車やバイク、自転車などは一切見当たらない…見かけ倒しの近未来さだ。

それから、植物はあるが…向日葵の横に桜って何だ?

天然じゃないのがバレバレのこの甘さ。


「ははは、何だ。妾達がこんな格好をしているからと、この風景があまりに意外過ぎるか」


色々な意味で意外な世界。

そしてこけしが歩いて行ったのは、


「!!?」


黒い塔だった。


"約束の地(カナン)"でもあり東京でもにょきにょき生えた、あの黒い塔。

玲が言うには、虚数を放つとか言う塔。

間違いねえ、漆黒色の外壁に混ざる真紅。


「"輝くトラペソヘドロン"…」


櫂の呟きに、俺は頷き…小猿は俺にしがみついた。

これは罠か?

俺達を油断させて、この…俺達の力が及ばない塔に監禁するつもりとか?

んなことするなら、俺…許さねえぞ。


「煌、信じよう」


だけど櫂が言うから、俺はそれに従った。

口元を吊り上げてにやりと笑うこけしに気づかずに。


塔の内部は…硝子に仕切られていた。

ぶつかれば壊れそうな脆い硝子。

コンコンと指で叩くだけで皹が入ってしまいそうだ。


「これは表の力は効かぬ材質故、そなた達が如何に力を振っても壊れることはない。黒き塔の外壁の親戚のようなものだ。試しに刀を振ってみるとよい」

こけしの挑発的な言葉に乗って、巨大な偃月刀でぶつけてみたら、


「な? 出来ぬだろう?」


硝子が破壊される処か、偃月刀に込めた力がそのまま反射されて返ってくる始末。

壊すことが出来なかった。
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