シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


エレベーターは目的階についたようだ。

内部に階数表示されているわけではねえし、外の…俯瞰具合も途中嵐で見えなくなってしまったけれど、前に学校帰りに芹霞と櫂とで上ったサンシャインの展望階よりは高いと思う。


降り立ったこけしが、またもや数字の入力画面を宙に出して、それまで見えなかった自動ドアを顕現させ、俺達をその中へと手で招いた時だった。

何だか…出来たて料理のような、いい匂いがしてきたのは。


途端――


ぎゅるるるるる~。


「………」


ぎゅるるるるる~。


「………」


ぎゅるる……。


止まったのは、俺が軽く小猿の腹に拳を入れたからだ。


「…おい、小猿。その腹の虫を何とかしろ」

「そんなこと言ったって…。緊張感から解放されて余計……」


ぎゅるるるるる~。

きゅるるる~。


「ゴボウ、お前式神だろうが!!!」

「す、すまぬ…。我は翠殿と同調している故に…」



ぎゅるるるるる~。

きゅるるる~。

きゅるきゅる~。


「チビ、お前まで鳴らすか!!」

「仕方が無いじゃないか。僕だってお腹が空くんだ」

「胡桃を食え」

「やだよ、これは櫂の為に此処の皆に捧げた大事な胡桃なんだ」


以外にこいつ、律儀だ。

現実の玲のように、櫂に対する感情は純粋だからなんだろうか。

玲共々、俺には違うけどよ。


「それに僕は求愛の胡桃は食べられないよ…」


ぎゅるるるるる~。

きゅるるる~。

きゅるきゅる~。


ああ、うるせ。


「おおそうか。だったらチビ、お前はいつも何を食ってる?」


ふと…本当にどうでもいい疑問が湧き上がった。


「それは、芹霞の香しい甘い蜜がたっぷりと塗られた、しろくてすべすべした芹霞の……あうっ」

「…お前に聞いたのが間違いだった。いいか、芹霞を食うのは俺だ」


コホン。


咳払いがして、顔を向ければじとっとした目を寄越す櫂で。


「中に入れと言われている。入るぞ」


中に拡がっていたのは――



『祝 ウジガミ様 ご帰還!!』


大きな横断幕と――


「ワンコ、ごちそうだ!!!」


大きな机に並べられた色取り取りの食べ物。



「え? 何? え?」


いきなりのことで、わけが判らず思わずこけしを見たら、


「妾が神を仲間と言うにはおこがましいかもしれぬが、これは妾達のささやかな気持ちだ。此処まで来るのは疲れたろう。砂嵐が収まるまで、ゆるりと休むがいい」


そう柔らかな笑顔で言われたんだ。


は?
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