シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
連れられたのは、6畳程の茶室。
そして夢路が並べられた茶道具を手に取り、茶を立て俺に差し出した。
熱すぎず温すぎずの絶妙な湯加減。
夢路が表と関わったのはいつ、どういう場所だったのか。
見る分には"正常者"の姿態を持つ彼女が、表から弾かれた理由は何か。
俺より遙かに年上であるはずなのに、少女の身形をしている故か。
…それだけだろうか。
「尋ねたいことがあるのだろう?」
押し鎮めた声を放ち、夢路は俺の真向かいに正座する。
目許にホクロこそないけれど、間近で見る夢路の顔は、かつての藤姫…篠山亜利栖と同じものだ。
奇妙な縁を感じながら、俺は頷いて言う。
まず疑問点の確認を。
「本題に入る前に少し尋ねたい。お前達の教典『妖蛆の秘密』は、元々この世界にあったものか」
「………。いや、まだこの世界が混沌としていた時に…持ち込んだ者が居た。そこからのものだ」
だから俺は単刀直入に聞いた。
いや…確認したんだ。
「持ち込んだのは…
――久涅だな?」
夢路が微かに笑った気がする。
「いかにも」
恐らく、その質問が来るのは想定内だったのだろう。
「それは…久涅が次期当主の肩書きを廃された時のことか」
「そなたには…判っていると見える。ならば隠すのは無意味」
夢路は言った。
「10年以上は確実に前。久涅は此の地に堕ちてきた。その頃の此の地は混沌とし、表からの侵入者は勿論、同胞でもすぐに殺し合うという殺伐とした世界だった。恐らく、そなたが当初予期していたような…そんな世界だった。
その久涅が生き抜いていられたのは、手にあった『妖蛆の秘密』。そして無効の力故に。此の世界の者達は考えた。久涅の力は、『妖蛆の秘密』によって手に入れたものだと」
「その頃、久涅は既にその力を見せていたのか?」
「片鱗はあったが、その力の大きさはごく僅かだった。しかし此の世界で徐々に力が強まったと思われる」
此の地で目覚めた無効の力。
俺も玲も緋狭さんの紫堂によって短期で紫堂の力に目覚めたが、同じ緋狭さんに紫堂されたはずの久涅は、然程のものでもなかったらしい。
あれだけの無効の力を見せるに至ったのは、此の世界での戦闘による実戦経験によるものだったのかもしれない。