シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
櫂の方が俺の力を勝るのは判ってはいるけれど、それでも横一列で戦えるというのは…酷く心地が良い。
護衛の意味合い抜きで、櫂と共に立てることは…酷く気持ちが良いんだ。
一緒に、走っている気になるから。
偃月刀が生じさせる物理的な風と、紫堂の力が生み出す風の力が合わさる。
「この喫茶店を壊滅させるわけにはいかないから、風の範囲を狭めるぞ」
櫂の声に俺は頷いて、偃月刀の旋回角度を調整する。
俺達の風は制御不可能な暴威となることなく、必要最小限の範囲にて…ただ俺達の身を守る結界となる。
しかし吹き荒ぶ風の威力で視界はぼやけ、一体どれくらいの規模の誰が襲撃しているのかよく判らねえ。
それでも…偃月刀の風と共に、偃月刀の刃が斬っている感触はある。
凄まじい数の…銃弾を。
「マシンガンか大所帯で乗り込んで来たのか判らねえけど、このままだと埓(らち)あかねえな。………。俺が突っ込む」
そう偃月刀を旋回したまま、前に踏み出そうとした時、ぐらりと俺の体が傾いて。
何だ?
何だこの眩暈?
「あっちゃあ……」
失敗したとでも言うような、アホハットの声が遠くに聞こえてくる。
「だから何で今来るねん!!! 翠はんとクマは…ああもう"ばったり"か。クマ…お前はんまで、ばったりって何や!!! ホンマ裏世界の住人か!!?」
"ばったり"って何だ!!?
ぐらぐらする頭抑えて振り向けば、小猿とクマが床に寝そべっていて。
これは…攻撃を受けたからではないと直感で悟った俺は、慌てて櫂を見た。
櫂も片手で頭を抑えていて…かなり足元がふらついている。
「飲み物に…何か仕込んでいたな…!!」
そう…カウンターの壁際に、大仰な様で張付いているマスターに声をかけた櫂が、
「何者だ、お前は!!!」
ふらつく足を前に出し、風の力をマスターに向けた時、
「ちゃうねん、ちゃうねん!!! それが裏世界へ行く掟やねん!!! 裏世界への行く道は隠さなあかんのや!!! マスターは当然のことしたまでで…」
ああ…アホハットが何か言ってる。
眠ぃ…。
無性に眠ぃ…。
何だよ、突然この眠気。
櫂を守らねえと…。