シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


元々白皇は、秘密結社が渇望した"天使"捕獲の為に日本に遣わされ、財力と権力を持つ旧家各務家に近付いた、ドルイドの末裔。

手にしていた魔書『屍食教典儀』を餌に、遠隔的に天使探索をしようとした挙げ句…天使に魅入られ自らを滅ぼした。

各務の執事となるまでに、姿を変えた藤姫と婚姻して子供を設け…学者としてほそぼそと生計を立てていたその期間、レグは使命を果たして帰還しないことに憤って追手をさしむけた秘密結社から逃れていたはずで。

以降の秘密結社の動向は誰も知らない。


久遠曰く、その秘密結社に関わりがあったという『妖蛆の秘密』。

此の世界にある同名の本が本物か偽物かは判らないけれど、もしその秘密結社が暗躍して、レグの時と同様に、誰かを魔書を使って操ろうとしていたら。


仮にも久涅は紫堂の血を引く男。

廃されたと言えども、紫堂当主の息子。


利用価値はある。


「左様。久涅を追うようにして、久涅の知人として異人達が現われ…我らに『妖蛆の秘密』の概要とその力の一部を教えた」


あっさりと、夢路は頷いた。


久涅のバックには、レグの秘密結社がついていたのか。

久涅は、久遠と少なからず縁があったらしい。


「その頂点にいるウジガミ。黒き薔薇の刻印は"蛆神情報"を人工的に"転写"された煌というウジガミを抑える力を持った者達の盟約ということだが、真の意味合いは何だ?」


俺は夢路を見据えて言った。


「表に…此処から出られぬはずの黒き薔薇の刻印者がいる理由は?」


それは芹霞の父親、巧海さんでもあり…情報屋でもあり、それに…。


「この刻印の形は、そなたが思い浮かべているだろう秘密結社の者が持つものを模したもの。

此の世界での意味合いは…咎人の印」

「……咎人?」

「いかにも。秩序を乱して、邪なる願いを叶えた者のこと。この烙印がついた者の贖罪は、血を分けた者にも引き継がれる。即ち子供に」


俺は目を細めた。



「だから…囚われておろう、"供儀の森"に。

神崎巧海の…長女は」


気づいていたのか。

外を見渡せるエレベータで、俺が思っていたことを。



俺を引き上げに来た緋狭さんを連れ戻した"わさわさ"な触手。


あれは――

伸びた木の枝ではなかったのかと。



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