シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
黒き薔薇の刻印があった巧海さん。
"供儀の森"に囚われた緋狭さん。
――"供儀の森"。罪深き者の収容場所だ。
砂嵐が視界を奪う寸前で、夢路があれをわざわざ見せたということは、意味があるのだろうと思う。
あの森には罪を持つ者が囚われているというのなら、緋狭さんは…
「神崎巧海は、この世界で生まれた者」
―-秩序を乱して、邪なる願いを叶えた者のこと。
父である巧海さんの罪を贖っていると?
そして彼は…この世界の出身だと?
彼が叶えた邪なる願いとは何だ?
巧海さんはどこからどうみても普通で、特別に何かを持っていたようには思えないのが正直な処。
しかしその普通である男から生まれた娘が五皇が1人…最強と名だたる紅皇であるというのは、確かにおかしな事象でもある。
俺や玲は、元々紫堂と言う特殊な血筋を引くから異能力があってもおかしくはないだろうが、緋狭さんに関しては生まれ育った環境が普通すぎる"違和感"は元からあった。
「奇形同士の子が奇形になるとは限らぬ。それに、この世界には姿形は健常であって異能力を持つ故に表に弾かれたものもおる。力を持たぬ巧海の姿態は表では"普通"のもので、この世界では普通の"異常さ"がなかった。故に此の世界の住人らに妬まれ孤立し、そして表の世界に恋焦がれ…密かに表の女と通じ、第二子まで居り…逃げようとしたのだ。だが表で言う"凡人"には妾達に敵うはずなく、逃亡劇は未遂で終わるはずだった」
第二子……芹霞のことか。
「その頃の此の世界は、久涅により確立された"秩序"を保つ為に、同胞を捨て表に行くことを禁忌としていた。此の世界存続を憂うが故の暗黙の縛りだ。皆が皆表に流れたら此の世界の意味も、此の世界で生きる者達の存在意義も無意味となってしまう。せっかくウジガミ信仰によって1つにまとまったというのに、全てが無に…無秩序に還ってしまうからの。
よって禁を破りし者は、罰則者(ペナルティ)としてあの森に"捨てる"こととしておったが、奴には内部の手引き者がいてまんまと表に逃げおった」
「……」
「それを許していては此処が乱れるまま。秩序を守る為には処罰が必要だった。その為に表にまで追跡の手は緩めなかった。
見つけるのに数年の月日を要した。連れ戻そうとした妾達に、奴は言った。もう逃げ回る生活に疲れきり、無秩序時代の世界を見知っているだけに戻ることの"制裁"を恐怖し、そして愛するべき家族にも被害が及ぶのを懼れたのだろう。被害を最小限に留めようとして、妾達に愚かな取引を申し出たのだ」
――もし私達を見逃してくれるのなら。
「長女をやると」
俺は目を細めた。