シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


俺が目撃したあの"わさわさ"…小枝らしき触手から、緋狭さんが森のような場所に囚われているのは事実で、そして俺の心の中から此の世界に繋がっているというのなら、"供儀の森"に居ると考えていいと思う。

つまり何かの罪を背負っているのは事実。

そして至って平凡であった巧海さんが、黒き薔薇の刻印を持っていたことから、此の世界に関わる特別なことをした…ことは間違いないだろう。


俺がひっかかるのは、追手が巧海さんに差し向けられてからの説明の下りだ。

そこから先の真実を夢路が隠蔽したのだとしたら、その理由は何だ?


建前……とか?

此処は二人きり、何でそんなものが必要だ?

俺に明らかにおかしいと思わせる、そんなあざとい建前が何故必要なんだ?


………。


俺はぐるりと周囲を見渡した。

何でもないようにも見える茶室兼和室。


………もしかして。


此処も…そして宴会会場も、突き詰めれば此の世界の全てがそうなのかもしれない。むしろ可能性としてはそれしか思い当たらなかった。


「情報は…開示されているのか」


夢路は肯定の代わりに、薄く笑った。

答えられないのが、答えだろう。


開示した情報(もの)を監視して統制する存在があるのか?

隠蔽された情報がないからこそ、情報に溢れた世界。


今俺と夢路の会話もまた、情報の1つとして何処かに流れているんだ。

その情報に、真実を乗せられない…ということらしい。

真実を隠すのは、此の世界の"秩序"の為か、また違う理由か。


そしてそれを…暗黙に悟れと俺に言っている。

真実は言えない、しかし真実はあると…俺に悟らせてどうしようとしている?

一旦此処は引かせて、その実何をさせようとしている?


夢路は着物の上から腕を摩った。

それは夢路の黒き薔薇の刻印がある場所で、俺にはそれが故意的な仕草だと思ったんだ。


黒き薔薇……。


巧海さんに刻みつけられたあの薔薇は、

―-秩序を乱して、邪なる願いを叶えた者のこと。


その部分は真実だとしたら、緋狭さんが今、従順に森に囚われるに至る…巧海さんの叶えた願いとは何だ?

此の世界は咎の証である黒き薔薇の刻印と引き替えに、巧海さんや緋狭さんに何を与えた?
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