シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
久涅の存在で、此の世界は秩序立って存在可能となった。
久涅が黒き薔薇というものをもたらした。
それ故に、罪の刻印を押された巧海さん。
巧海さんが逃げた時期に、久涅はいた。
久涅が此の世界に現われたのは…早くて、玲が次期当主となった10年前。
巧海さんに咎印をつけたというのなら、その印を確立させた久涅やレグの秘密結社が現われてからのことだろう。
そして普通人であり家族連れの巧海さんを見つけ出すのに、数年の月日が要したこと。
………。
……逆か。
巧海さんは逃げたのではなく、第三者に"逃がされた"のか。
そこに彼自身の思いがあったかどうかは判らないけれど、表世界に…目的を持って忍び入ったのか。
――うじがみさま。
8年前、芹霞の母親…倭水(かずみ)さんは煌を見て驚いた言葉を発した。
"ウジガミ"
ウジガミという存在を、芹霞の両親は既に知っていたとしたら。
ウジガミが彼らに敵対するわけはないと…その前提でいたとしたら。
情報を提供していた、内通者が居る。
その内通者の力によって、長い間追手から逃れられていたんだ。
だとすれば、追手の動向を制御出るのは、それなりに高い立場に居る者で…。
「!!」
夢路だ。
だからこそ、その時の真実を隠蔽することも出来る。
夢路の命で、逃げたウジガミを探しに出たのか、巧海さんは。
倭水さんもそれを知っていた。
――この馬鹿犬が。
緋狭さんが、制裁者(アリス)の中で煌だけを庇護した理由。
ここで、1つの仮説が成り立ちはしまいか。
「巧海さんは…緋狭さんを使って…」
俺は続く言葉を呑み込んだ。
"ウジガミを探していたのか"
それを悟ったらしい夢路は口元だけで嗤うと、翳った顔を横に向けて、遠くを見つめていた。
その面差しは――。
そこに浮かぶ憂えたものは――。
だから俺は聞いたんだ。
「煌は…"蛆神情報"を人工的に"転写"されたのではないな?」