シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
確認だった。
無理がありすぎると始めから俺は思っていたんだ。
煌の力は確かに未知数で普通人とは言い難いものがある。
しかし『妖蛆の秘密』などいう暗黒の魔書の、秘密結社も或いは此処の者達にとっても、生きる糧とも言うべき…信仰対象になる程の偉大なる存在情報を…たかが人の手で簡単に作れるものか?
神の情報を…人が把握し、それを植え付ければ人の子か神になれるのか?
怪しげな儀式によって仮に"転写"に成功したというのなら、何故煌が逃げた時に追わなかった?
どうして8年も放置した?
何故夢路が真実を隠蔽しようとしていた?
そこに煌の出生の秘密が絡むというのなら……。
「黒き薔薇の盟約者の一部は知っておる。此処までは問題あるまい。あの者…煌は、表で神隠しにあった若き処女の腹より産まれた。
臨月にて戻った女は発狂しており、腹を突き破るようにして生まれた子供は『魔女の子』として忌み嫌われて捨てられ、此処に流れ着いた。それを妾が見つけ…情けをかけ、此の世界で育てた」
…………。
ああ――
そういうことか。
そうだったのか。
「夢路…もういい、判った。
俺は…煌にこのことを言うつもりはない。
お前が…言うつもりがないのなら」
夢路は黙ったままだった。
「だが、1つ聞きたい。
俺が此処の皆から受入れられるに至ったのは…お前のおかげだ。
俺達を助けたのは…どういう理由だ?」
ゆっくりと夢路は俺を見る。
「そして俺に情報を授けるという餌を出したのは…
俺が2色の薔薇の刻印をもっていたからだけが理由ではあるまい」
俺の声が震えてくる。
「俺に必要なものを与える代わりに――
煌を…此の世界に残せと言うのか」
俺は母親の愛情というものは判らない。
それでも…夢路からの情は判るんだ。
秘密裏に動き巧海さんに託してまで、煌を取り戻そうとしていたんだ。
大切なものを失いたくない、その心が共鳴しあうからこそ。
微動だにしない、冷ややかな顔に浮かぶのは…"母親"としての情。
そこには穏やかさはなかった。
ちらちらと見え隠れする鬼々たる独占欲こそが――
一度…『魔女の子』として我が子を捨ててしまった懺悔の強さを示すものであり、もう離したくないという生みの母の愛情の強さなのだと、俺は思った。