シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


ただ――

夢路を煌の母親だと断定するには、決定的な欠陥がある。


それは、時間軸。


夢路は藤姫の先祖だと言った。

それを真とするならば、かつて18歳だった篠山亜利栖と同じ姿態の、今俺が見ている夢路の歳は100歳をとうに過ぎていることとなる。

煌は、俺と同じ17歳。

8年前の煌の姿とて、俺と大して変わらぬ姿だった。

煌の姿はきちんと成長して変化している。


――表で神隠しにあった若き処女の腹より産まれた。


90歳過ぎの処女の腹から煌が出て来たとは思えない。

また、煌がいくら特殊とて、何十年も女の腹に居たとも思えない。

そんな事態になるのなら、周りが黙っていないだろうし、身ごもった方だって正常な精神状態ではいられまい。



だとすれば――

夢路は、あの言葉の中の"若き処女"ではないのか?


それでも、今此処に居る夢路の顔が母親の顔をしているのは――


「……数ヶ月間、此処の世界から一人の娘が忽然と消え失せ、突然戻って来た。何処に行っていたのか、誰と会っていたのか…それは不明だ。戻って来た時、娘は錯乱状態で…自我は崩壊していた。腹の膨らみ具合を見れば確かに子は孕んでいたが、肉体的な交わり故の受胎ではなく…腹には"細工"された痕があった。それは…妾にもあるもの、だ」

自らの腹を痛めた、母親の顔をしているのは――?


「その頃の此処はまだ久涅が来ておらず混沌としていた。その中で娘は狂ったようにに叫んでいた。"ウジガミ"と」

俺は目を細めて聞いた。


「後に異人達が持ち出したウジガミと関わりがあったのかどうかは判らぬ。ただ初めてその名を聞いた妾達は恐れた。腹にあるものは一体何か…妾達に恐怖をもたらす存在なのではと、周囲から隠していた娘ごと殺そうとしたその時、娘の腹が裂けて…中から赤子が飛び出て来た。

赤子の姿はまだ未熟で…そのまま放置しておけば何れは死に絶えると思われた。だが…時期早々とはいえ人の形をしていた。妾は…人が死に絶えるのを見るのは忍びなかった」


考えられることは1つ。


「だから妾は、赤子を外部から守る為にも一番よき方法を――」


やはり夢路は生んだのだ、煌を。


それを可能と出来る異質さは、夢路もまた…表から逃れた者であることに、理由があるのだろう。


――腹には"細工"された痕があった。それは…妾にもあるもの、だ。


確認のように、俺は夢路に言った。


「……借り腹、か」


夢路は否定せず、翳った顔を俯かせた。

そこには夢路と言うより、女としての悲壮感が漂っていた。
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