シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



誰の子を宿したか判らぬその娘の子を、夢路が自らの腹に入れて育て、もう一度安全に此の世に生み出した。

経過がどうであれ、血の繋がりがどうであれ……自らの腹を痛めて生んだ子は、やはり"我が子"には違いない。

そして煌にしてみれば、依然真実の出生は不明であり、その誕生は周囲には喜ばしいものではなかった。

誕生できたのは、夢路の力があったからこそ。


「久涅達が現われるまでは、鬼子は…出生を隠していたというのに、どこからか情報が漏れ厭われ続けてきた。睦月だけが遊び相手だった。そして数年後…ウジガミを体系化した知識を持つ者達が現われた。だから妾は…ここぞとばかり、それを受入れるよう周囲に提言した。ウジガミという人を越えた得体の知れぬ存在が、この世界での希望の光となり、かつ鬼子の希望の光になるのならばと」


ウジガミとしてでも…その出生を"期待"されて煌は生まれたのだと、"蛆神情報"を"転写"されたという…曖昧かつ婉曲なものに情報をねじ曲げたのだろう。

全ては後付けの情報操作。


煌が生まれた17年前には久涅はまだ現われていない。

つまりまだウジガミは希望の象徴でも何でもなかったはずで、その中で"蛆神情報"を"転写"して生まれた…と説明付けるには、時間的な矛盾が生じている。


しかしそれは…表に還りたいという希望を盲目的に、渇望している者達にとっては、見えぬものなのだろう。

1つの時間軸上にて、1つ1つの独立していた事象が連鎖的な事実として、ぐるりと…繋がってしまっているんだ。


過去は自らが表に虐げられてきたということで十分であり、現在は此の世界にいること、そして未来には…自分達が望むものがあれば事足りる。


時間のすり替えが起こっていることすら判らない――

それが、妄信的な…願いの時間軸。

時間は…心によって操作出来る。


そして同時にそれは…望まれぬ子を持つ母親が、我が子の未来を案じた上の苦肉の策。

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