シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
母親、母性――。
俺は子供を産んだことはないし、母親の愛情もどんなものかは知らない。
第一男だから…母性愛というものは概念としてしか判らないけれど、あんなに小さかった芹霞からですら…アカの他人である俺へ、強い愛で庇護しようとしたことを思えば、それ以上の思いを、夢路が煌に抱いているのは間違いない。
「緋影の体は特殊にて、その子らを身籠もった女達の負担多く、古来より子供諸共死ぬ娘が多かった。表の言葉で言うと、"多臓器不全"になるとでも言えばいいのか…生命維持をする臓器が動かなくなり死に至る。
よって我らが緋影は、成人できる数が少なく…更には此の世に生を受けても面白おかしく利用され、その数を減じられてきた。絶滅を危惧したのが…妾達を"スペア"に利用しようとする世の支配者達だった」
まるで独りごちるように夢路は語る。
「妾を始め、稀に…同族の力に影響を受けにくく生まれた女達に、更に外科的手術を施して、完全に"生み出せる"道具として創り出した。
臨月だろうとなかろうと、奇形だろうと、瀕死状態であろうと…、一度妾の腹に入れば…健やかに生まれる。それが妾の…"再生"の緋影の…道具としての表の位置だった」
そう、静かに腹を撫でる夢路。
「藤姫なる者は己の身体を変え続けることで、何人もの子供を産み落とした。緋影に生まれて、例え別の肉体に移り変ったとはいえ…自らの身体にて血を分けた子を生み出せたその喜びを味わえることが出来ながら、生んだ我が子までも欲を満たす道具として利用しようとする…あやつは女の恥よ」
ああ、だから夢路は…"藤姫"という名を聞いて、嫌悪の表情を顔に浮かべていたのか。
「妾の身体には、借り腹としての特殊な"細工"がなされている。子を産めるとはいえ…最早女の身体ではない。女として…どちらが恥かの……」
もし何百年も生きてこの姿で生き続けられているのも、"細工"に関係があるのかもしれない。
産めよ殖せよ…それは時代の思潮か、強欲な者達の私情か。
細工というものがどんなものなのか、夢路が語らないのは…語ることが出来ぬ程の壮絶なものであるのだろう。
それは恐らく――
女としては耐え難い苦痛なのだろう。