シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「これは…妾の独り言だと聞いて欲しい」
だからこそ、産んだ子供に普通以上の愛情を持っている…そういうことか。
「妾は…表では、地下牢に繋がれ家畜のように子を生ませられ続けていた。そして生まれた子供は、世の支配者の肉体の"代替品"としてモノとなりゆく。それが忍びなく…妾は逃げ出した。逃がしてくれた…表の者のおかげで、妾はこの世界に来れたのだ。
妾が人としての地位を持てたのはこの世界とその者に救われたがこそ。無秩序であったとしても、人としての存在が認められぬ表よりは遙かに良かった。
しかし嫌嫌ながらこの世界に流れ着いた者達は、表への憧憬が抜けきれぬ。故の憎悪、故の羨望。だからこそこの世界において、表の者を弾ける守護者となりえたのだ。利用されたくないと願いながら、この世界の秩序の為だとはいえ…結局は此処でもまた利用されていることに気づいておらぬ」
冷ややかに言い除けた夢路自体、この世界の"秩序"を快くは思っていないのだろうか。
そしてその秩序を作ったのは久涅と、レグが居た秘密結社。
この世界をまとめようとしたそこに魂胆はあるのだろうか。
何を企んでいたのだろうか。
「妾が腹を痛めて生まれし者は、血の繋がりなくとも妾の家族よ。奇形故に子を産めぬ女達に成り代わり、妾は此処でも子を産んだ。睦月も妾が実母に代わって生んだ子だ。
死んだ実母に代わり妾が面倒を見てきたが、妾の実年齢を何処かからか聞いたのだろう、気づいたら妾は祖母になっておった。妾は見掛けは…この通りだが、年齢的には…睦月は玄孫(やしゃご)あたりか」
本当に愉快そうに嗤う夢路の顔は、また母親の穏やかなものとなっている。
「そうして此処での妾の家族は少しずつ増えたが、妾が幸せを感じると同時に、絶望のどん底に居る…表に残したままの者達の安否が気になった。特に妾のように生む道具とされていた女達は他にも居たから、妾が逃げ出したことでどんな惨い仕打ちをうけていたことか。その点において、妾は…表に未練があるのだ。表に戻りたいと思うのは、責任故に。そして妾は…表の情報を欲した」
つまりは…表との連絡係が必要だったと言うことか。
情報屋…だったのだろうか、その役目は。
俺に…真剣な顔が向けられていた。
「鬼子は…連れ出されたのだ。逃げたのではなく」
突然、話が戻って来た。
鬼子とは…煌のことだろう。
今までの夢路の話は、前振りだったらしい。