シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「櫂…大丈夫か?」

「ああ、だけど何だこの眠気は…」


俺達は必死に気力を奮い立たせるけれど、


「眠ぃ……」


どろどろとしたものが意識を覆っていく。


偃月刀が重すぎて。

体を動かすのも億劫で。


眠ぃ……。



「煌…?」


遠くで櫂の声が聞こえて、これじゃ駄目だと偃月刀の刃で腕を切ってみるけれど…。


力が入らず、崩れる足。

眠くて仕方が無くて、思考回路が停滞する。


「櫂……」


守らねえと…。


這うようにして櫂の服を掴んだ…

処までは何とか記憶がある。



所詮、俺の頭が見せた幻覚だ。


マスターが、でかい散弾銃を両脇に抱えて銃を撃ちまくっているなど。


無表情の兵士(コマンドー)さながらで、何処かで昔……そんなDVDを見たななどと、ぼんやり思う。



そしてアホハットが――

床に落ちた何かを拾うような格好で…


「10時きっかり!!!

裏世界の門を開くで!!!!」



そう叫ぶと…。


アホハットが床に触れた部分に、鎌鼬(かまいたち)のような風が拡がり、まるで俺達を取り囲むようにして、円状に床がくり抜かれ…


地面が大きく揺れ――


何処かからか、冷たい風が吹き込んできた…


そんな気がしたんだ。



その冷たい風は――

血生臭くて悍(おぞま)しい…


何処かで何度も肌に触れたことのあるようなもので。



「う……」


必死に抵抗して自分を取り戻そうとする櫂を、薄く感じた俺は、



もしも今――

周りから狙われても


櫂だけは生き残れるようにと…



鉛のように重い身体を動かして、

櫂を抱きしめるように…上から覆い被さった。



せめて――


無駄に大きい俺の体が、

櫂を守る防御壁となりますように。



そう願った。



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