シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「連れたのは…黒き薔薇の刻印を持つ、異人だった」


秘密結社か。


そして煌が制裁者(アリス)となっていたことから、彼らは…藤姫と繋がっていたのか、藤姫に煌を献上することで何かをしようとしていたのか。


どちらにしろ、連れられた煌は"売られた"んだ。


「神隠しに遭って孕ませられた娘が呟いた"ウジガミ"。追って現われたのは、それと同じ響きの持つ魔書の知識を広めた異人達。

ウジガミという存在は、確かに希望の象徴としてはいいだろうが、実際妾は…出来すぎだと思っていた。タイミング的に。

そして煌を藤姫が手に入れたのが判った時、妾はあやつに利用されていたことを知った。恐らく…この世界に来れなかったあやつの、或いはあやつの参謀の奸計だろう。煌は…緋影の特殊な身体を利用されていた」

以前緋狭さんは言っていた。

レグ…白皇の奸計は緋狭さんや氷皇を越えると。

もしかして…秘密結社の目を別に向けさせたのは、白皇であるレグの入れ智恵だったかもしれない。

今となっては、推測にしかすぎないけれど。


「利用されることを嫌う妾は…煌が利用されるのを守ってやれなかった。妾は知っていて…此処を動くことが出来なかった。此処を動かずに居る…それが妾を助けてくれた者との約束だったから」

それが誰なのかということを伏せ、悔しそうにその顔が歪まれる。


「妾はその約束を守る為に、我が子を見殺しにした鬼母よ。人を使って見守ることしか出来なかった」


だから…巧海さんを派遣したと?


「それでも、妾は…煌の幸せを誰より願っておる」


それは唐突だった。


「煌を…返してはくれぬだろうか」


夢路がこちらに向き直り――


「この通りだ」


両手を畳について頭を垂らしたのは。


「ここまで人として育ててくれたことは感謝する。しかしあやつの還る場所は家族の場所。妾達の…あやつの家族たる皆の者の歓迎ぶりをみただろう。ウジガミという希望の象徴であると同時に、あやつの存在に、皆が引き込まれ…受入れたのだ。そして煌も嫌がっていなかっただろう。馴染んでいただろう?」

宴会においての煌の笑顔や騒ぎが目に浮かぶ。

警戒心強い男が打ち解け、その心を見せていた。

居心地がよさそうだった。


「そなたが表と裏を繋ぐというのなら、煌は…そなたとまた会える。生涯の別れではない。煌の生活の拠点を妾達の処に戻して貰いたいのだ。妾達は煌を心から歓迎している」


…………。


「それにそなたはもう気に止むことはない。

罪悪感からも解放出来る」


「……どういう意味だ」


俺は思わず低い声を出してしまった。
< 930 / 1,366 >

この作品をシェア

pagetop