シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「ずっとずっと…煌を"実験"に使って、その人生を狂わせたと思っていたのだろう?」
俺は押し黙った。
紫堂が煌にしでかしたことは、償いきれぬ大罪だと思っている。
もうこんな犠牲が出ないように紫堂を変えようとしても、それで煌への禊(みそぎ)になるわけではないことも判っている。
煌を救ったのは神崎姉妹だ。
煌が笑いながら俺に好意を向けてくれていることに――
煌が人らしい感情豊かな顔を見せてくれることに――
俺はどれだけほっとしてきただろう。
俺自身も救われてきたような気になっていたのは事実だ。
それはあくまで一方的な、自己満足的なものではあるけれど。
俺は…煌が幸せであるようにと願い続けてきた。
煌の還る場所は、俺の居る環境しかなかったからこそ、俺達はいつまでも笑顔で共に走れると…そう思っていた。
「煌は妾達家族の元に戻るのが、一番の幸せなのだ」
もしも、煌に他に還る場所があるならば。
もしも生まれ育った環境で、煌の帰還を心待ちにしていた者で溢れていたのなら。
そこに本当の家族がいるのなら。
それが心の拠り所になるのなら。
煌の幸せを願うのなら、俺が決断しないといけない。
――俺は櫂が大好きだ!!
何が煌にとって幸せなのかを。
――櫂を信じてくれ、この通り。
俺という存在は、煌を縛るものであってはいけない。
俺達は場所を離れても…また会える。
だから――
「判るだろう、そなたにも。此処では妾達は家族であり同胞であり、そして煌は見下されるのではなく…敬われるべき存在なのだ。
そなたはもう長すぎた罪悪感から解放されるがよい。ここからは妾達があやつを守る」
「俺は――…」
「この世界の"情報"の姿を開示してやろう。それが欲しくて、此処に来たのだろう? 協力してやろう」
「俺は、」
「それに…煌と同じ娘を取り合っておるのだろう? 此処に煌を残せば、娘を取り合う悲劇も免れる。妾が責任を持って煌を諦めさせる。誰にとっても煌が此処に居た方が幸せなのは判るだろう?」
「――俺は……」
唇を噛みしめてから姿勢を正すと、真っ直ぐに夢路を見据えて言った。
「俺は――煌を離すつもりはない」
それが俺の出した答えだった。