シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
推理
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東京都豊島区池袋――。
あたしにとっては馴染の深い街に帰ってきた。
Zodiacの新曲を宣伝する派手派手しい装飾にまみれたトラック。
トラックが上に載せているのは、女子高生2人と化け猫。
それを運転するのは、大根好きな今年度ミス桜華。
その正体は――
氷の次期当主とあだ名される紫堂財閥の後継者たる男。
あたし達は至って真剣にあの場を乗り切ってきたのだけれど、あの時の逼迫感を無くした今、思わずにはいられない。
これはギャグですか!?
そんな中、無関心なのか白昼夢だと目をそむけられたのか、凱旋車は周囲の人達から特別注目されることなく、拍子抜けするほど静かに迎えられて。
自警団の影がないのは明らかにおかしいと言う玲くんに従って、池袋に入ってからは早々に車を捨てることにした。
化け猫は冷めた顔であたしを見ると、大あくびして眠りについてしまう。
新たなる身体は大きすぎて、さすがに首に巻き付いてこない化け猫は、あっという間に携帯用カバンに早変わり。
手足と頭がカバンの外から見えてしまうのが難点だ。
「いい、クオン。ネコだってばれたら、あたしあんたを置いて逃げるからね。はずかしいでしょ、いくらなんでもそんな姿でテコテコ歩くのは。あんただってネコ並の羞恥心っていうものがあるよね? それが嫌なら、飾り物になっててちょうだい」
クオンは一声鳴いた後、おとなしくあたしの言葉に従った。
化け猫も羞恥心はあったらしい。
「……神崎、それ…」
「カバンのアクセサリーよ、アクセサリー。可愛いでしょ?」
呼吸もするし、鳴いて動くことも出来るけど、動くことがない…ふさふさのアクセサリー。
そして今――
目の前には、以前あたしが入院していた、東池袋総合病院がある。
玲くんは女子高生姿故に、医者だと公言出来ず、あたしと由香ちゃんが隠すようにして院内に入っていった。
歩く度に、化け猫の手足がふわふわと揺れる。
化け猫も、化け猫人形に納得してくれたらしい。
そちらに視線を感じるから、あたし達より頭1つ分は身長の高い玲くんからは、少しだけ注意をそらすことが出来た……かもしれない。
「紫茉ちゃんや紅皇サン、いないね……」
以前具合悪い患者が多かった院内。しかし今はひっそりと静まり返り整然としていて、紫茉ちゃんや朱貴はいないようで。
まあ、いつ行くとも離していなかったのだから仕方が無い。
とりあえずは入院棟に赴いた。