シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「葉山は、朱貴によって紫堂の名で運ばれたというのなら、一般病棟ではないだろうね。かつて神崎がいたVIP室か、個室か……」

「ん……。かなり酷い怪我みたいだったから、もしかしてICU(集中治療室)にいるのかもしれないね。もしくは…手術中とか」


そして行き着いた入院棟の総合案内にて、桜ちゃんが何処の病室に居るのかを問い合わせたのだけれど、コンピュータには登録されていないという理由で、それ以上を聞こうとすると、あからさまに嫌な顔をされてしまった。

すっと玲くんの目が冷たい光を宿して、細められる。


「酷い対応だよね。もういい。ここで医師免許取出しても、コロリと態度変わられても面白くないし。違う方法考える」

そしてご機嫌斜めになってしまった玲くんは、あたし達を促して案内所を後にする。

そして玲くんはつかつかと一人前を歩いて、一人の優しそうな看護師さんを捕まえると、何やら話し込んでいた。

すると小さい看護師さんは、大きな玲くんを慰めるように背中を叩いて、手を振り遠ざかる。


「よし、八階の個室だ。姉のフリをしたら教えてくれた。ああよかったよ。彼女……一番古い婦長で、担当外のフロアでも緊急患者のことはよく知っているんだ」


桜ちゃんは弟として運ばれたんだろうか。

最近の桜ちゃんは、ゴスロリする機会が減ってはいる。

性別がどうであれ、桜ちゃんは可愛いし、玲くんは綺麗だし。

あたしも早くお姉ちゃんみたいな美人になりたいけれど…な。


エレベーターで八階にあがる。

その上があたしが入院していたフロアだ。

「八階は、危篤患者が運ばれるんだよ。桜、大丈夫かな……」


玲くんの不安げな声が終わると共に、エレベータのドアが開いた。

不気味な程静かなフロアだ。

電気がついているのに何でこんなに薄暗く思うんだろう。

擦れ違う看護師さんの姿もない。


「ここは元々6床しか入っていない。聞いてイライラするのも嫌だから、回ろう」


そして、あっという間に一回り。


「おや? 6つのドアは空っぽだったよね?」


あたしの問いに二人は頷いた。

「どういうこと? 桜ちゃんは此処にはいなかったの? あの婦長さん、違う人と勘違いしちゃったのかなあ?」

「別に桜の写真を見せたわけでもないし、ありえなくもないけれど…けど、誰か彼か居てもいいはずだよな」


考え込む玲くん。


そんな時だった。



「遅い」



視界に飛び込んだ赤い外套。

煉瓦色の髪。


「朱貴!!」


紅皇サンだった。
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