シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
その時だったんだ。
突然風が吹いて、あたしの髪の毛が揺れたのは。
下から上へと。
そしてあたしの目は…いつのまにやら正面に立つ玲くんの背中と、玲くんが右手で掴む…桜ちゃん。
……桜ちゃん?
「え、桜ちゃん!!?」
そこには包帯姿ではない、あたしの記憶のままの……くりくりおめめとつやつやほっぺの桜ちゃんが、玲くんの手に首を掴まれて、苦しそうに藻掻いていた。
桜ちゃんの目から迸るのは殺気にも似た敵意。
まだ操られたままの状態だった。
「気配を殺す術は…流石だね」
だったら…やっぱり、あの包帯の奴は……。
「あれ……ベッドに居ない!?」
「神崎、上だ!!!」
由香ちゃんの声に慌てて天井を見上げれば、包帯姿の性別も正体も不明な奴が、上からあたし達に急襲するところで。
それを玲くんは、スカートを翻し……長い足で延髄に回し蹴り一発。
涼しい顔は…顔を歪ませて抵抗をみせる桜ちゃんからそれることはなく。
横壁に激突した奴は、めげず諦めず…果敢にも玲くんに攻撃をしかけてくる。
なかなかに気骨のある奴だ。
「玲くん、あぶなっ……」
その時――。
「ニャアアアアア!!」
空飛ぶ化け猫。
いつもより重そうだけれど。
クオンの鋭い爪が、顔に巻いてある包帯と共に、病院用の浅黄色のパジャマの肩口を切り裂いた。
包帯から覗く顔は…見知らぬ男。
その瞳の色は、碧眼で…日本人には見えなかった。
そして引き裂かれた病衣から見えた肌には…
「黒い薔薇の痣!?」
これは――
紫堂本家で現われたオカマメイドが持っていたのと同じ痣ではないのか?
あれと同じとなれば……
――……の印なんだよ、芹霞。
「ワマス ウォルミウス ヴェルミ ワーム…」
男が唱えるものは――。
――そうだ、仲間だよ。
「神崎来たッッ!! このフラグは……」
「蛆ッッッ!!!」