シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
あたしには…やけにゆっくりとした動きに見えたんだ。
玲くんは動かない。
桜ちゃんをじっと見つめたまま、玲くんは動かない。
「師匠、動け!!!」
動かない。
それどころか玲くんは――
「玲くん!!?」
目を瞑ったんだ。
「玲くんッッ!!!」
無防備にも見えるその姿を桜ちゃんの前に晒して。
だからあたしは――
「いやああああ、玲くんッッ!!!」
無我夢中で飛び出したんだ。
玲くんを庇おうと。
「芹霞、来るなッッ!!」
玲くんの慌てたような声。
驚いたようにこちらを向く桜ちゃんの顔。
全てが…スローモーションのように見えた。
そして光る糸が…あたしの首に絡んだ。
「芹霞あああああ!!」
「神崎ぃぃぃぃ!!」
首に巻かれた大きな光の輪が…
あたしの首を絞るかのように、小さくなっていく。
ああ…あたしの首、飛ぶのかな…。
玲くんの首が飛ぶより…よっぽどいいや。
……しかし、止まったんだ。
寸前で…多分止まった。
あたしの首に触れるのは――ただの糸。
大きな輪を作ったまま。
「桜ちゃん……?」
桜ちゃんは、泣いていたんだ。
黒い目からぽろぽろと…、いつもの桜ちゃんを思えば…不釣り合いなまでの涙が零れ落ちている。
それは悲しさのようでもあり悔しさのようでもあり。
苦しみのようでもあって。
いつも無表情の桜ちゃんだけど、精神のぎりぎりのところで戦っている――あたしはそう思えたんだ。
桜ちゃんは…まだ"自分"が残っている!!!
だから――。
「桜ちゃん、帰ってきてぇぇぇぇ!!!!!」
力一杯あたしは叫んだ。
無力なあたしは、玲くんのような力もない。
あたしに出来るのは、ただ叫ぶだけだけど。
届け。
届け。
桜ちゃんの心に届け!!!
「桜ちゃんッッッ!!!!」
桜ちゃんの濡れた目が、怯えたように震えた。
そしてその戸惑うような表情が、すぐに残忍な笑いに覆われた時、
「桜ッッッ!!!」
……それは一瞬だった。
桜ちゃんは標的を玲くんに戻して、そして糸で攻撃をしかけたんだ。
あたしは首に糸を巻き付かせたまま…玲くんに突き飛ばされた。