シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
意味がない。
これでは玲くんが!!
放たれる糸。
玲くんの片手がすっと上げられた。
その手が、虚空で何かを掴むような形を作った時…玲くんが青く発光したんだ。
その青色は螺旋を描きながら、桜ちゃんに向かう。
ああ…多分。
玲くんは掴んだ糸を通して、逆に電気の力を桜ちゃんに向けたんだ。
そしてその力は、桜ちゃんを攻撃するものではなく…
「心乱れた状態では、守護石の顕現は不安定。
今のお前では…僕には効かない」
裂岩糸という武器を消すためだけのもの。
青い炎を灯して…糸は燃えていく。
明らかに動揺した桜ちゃんが動くより早く、玲くんは再び桜ちゃんの首を手で掴み…そのまま床に押し倒したんだ。
「お前の中で"揺らぎ"を見たから、お前の理性にかけてみたけれど…芹霞を巻き込むのなら、作戦変更だ」
そして馬乗りになり、スカートのポケットから小瓶を出す。
「氷皇の置き土産だ。副団長の針が突き刺さっていない状態で、お前の理性を凌駕するほどの暗示は…お前自身の…氷皇の"薬切れ"の幻覚も関係あるはずだ。
お前を薬漬けにしたくはないけれど、今のお前の苦しみから救い出せるのは…この薬だけだと、僕は信じる」
そして玲くんは、錠剤を桜ちゃんの口の中に入れると、吐き出さないようにその口を、上から片手で抑えたんだ。
「芹霞、由香ちゃん!! 桜の両手を押さえて!!」
抵抗にじたばたし始める桜ちゃん。
由香ちゃんは飛びつくようにして、桜ちゃんの右手を両手で掴むと、抱きしめるようにその体の中に収めた。
まるで大きい魚を必死に捕えているような感じだ。
あたしはというと、反射的に…桜ちゃんの手を、どすんとお尻で踏み付けている。
はしたない格好だけれど、致し方ない。
速さと重圧は、これに勝るものはないと思うから。
スカートの下から伸びる桜ちゃんの腕。
もぞもぞと動いて何だか恥ずかしいけれど、どこぞの変態ワンコとは違うから、この手の動きは本能的な抵抗だって判る。
大丈夫。
操られてても、桜ちゃんは変態ではない。
ワンコとは造りが違う。
「………」
玲くんが、何か言いたげに…あたしと、尻に敷く桜ちゃんの手を交互に見た。
もぞもぞと桜ちゃんの手は動いている。
「大丈夫!! 桜ちゃんはワンコと違うから!!」
玲くんも桜ちゃんの変態化を危惧したのかと思い、安心させようと親指突き立てて笑ってみせたものの、玲くんのご機嫌がよろしくない。
鳶色の瞳が、冷ややかに…細くなっている。
……何で、責めるようにあたしを見るんだろう。
しかも、由香ちゃんの胸の位置に桜ちゃんの反対の手があるというのに、そちらは気にならないらしい。
あたしだけを見る玲くんの表情は、いかにも面白くなさそうで。
完全に機嫌を損ねているようだ。