シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


ショックで何だか泣きたい心地になりながら、ネコパンチまでしてくる化け猫の頭を、

ペチン!!


八つ当たり気味に少し強めに叩いたあたし。


「ニャア……」


……。

ああ、化け猫にあたるなんて最低だ。

すぐさま反省したあたしは、クオンの体の一部と化したバックを持ち上げて膝に置くと、そのクオンの喉元を撫でてご機嫌をとりながら、反対の手で噛み付かれた太股を摩る。


「うっ……んんっ…」


その時、苦悶の声が漏れてきた。


桜ちゃんだ。

桜ちゃんは黒髪を振り乱して、頭を横に振り続ける。


「師匠…葉山…!!」

「信じよう。桜は負けない」


紅潮した顔。

悶えるその苦しげな顔。


桜ちゃんなのに。

これはクールな桜ちゃんだというのに。


………。


あたしは思わず顔を赤らめて視線を外してしまった。


この悶える生き物…やばいかも。

桜ちゃんなのに…どうして色気があるんだろう。


無表情で、ワンコを怒鳴ってばかりの団長さん。

ストイックで生真面目な…ゴスロリの女装をしていた桜ちゃんが。


呼吸を乱して悶えている。

悩ましげに。



やばい。

心臓が……。



その時、肌に突き刺すような鋭い視線を感じた。


「……?」


褐色の瞳と、真っ赤な瞳。



「「………」」


横と下から。

玲くんと化け猫からだ。


詰るような眼差しで。



「ん……あぁっ……」


………。


「はぅ……っ、あ……」


………。


桜ちゃんの独り舞台。

不気味な沈黙を破った観客は、

「由香ちゃん!!」

憤然と立上がった玲くんで。


「はいよ師匠!! ちゃんと見てるよ!! こら、お前は行くなッッ!! ほぅ~このバック型はいいねえ、取っ手があるから掴められる」

「フギャアアアア!!」


悲痛なクオンの叫びを耳にしながら、あたしは、何故か…玲くんの肩に担がれて、隣の小部屋に連れて行かれた。


何?

え?


そこはあたしが入院していた時は、玲くんが仕事部屋として使っていた場所で、3畳間くらいしかない狭い空間に、事務机だけが置いてある。

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