シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
身に覚えがないことだから余計に…理不尽にも鬼気迫るような攻撃的な顔が怖くて、仰け反ってしまったあたし。
美しすぎる顔は、時には凶器になる。
とにかく玲くんを鎮めねば。
「あ、あの…まず落ち着いて…ね?」
そう空笑いをすると、更に更にその目が細められて。
「随分と…余裕だな」
小さな舌打ちの音が聞こえたかと思うと…
「!?」
玲くんがぐいとあたしを引き寄せ、唇を奪ったんだ。
あたしを貪るかのような強い口づけ。
何度も何度も角度を変え、唇を噛まれる。
骨がぎしぎしいうような、痛いくらいの抱擁。
玲くんの強さに、呼吸さえ奪われて。
玲くんの香りに、思考が奪われて。
熱すぎる温もりに、あたしが蕩けて消えそうな錯覚を起こす。
そんなほとばしるような力を感じながら、唇の隙間に…ためらうような舌先が触れて、震えた気がした。
それが奇妙に思えて、うっすらと目を開けると、眉間に皺を寄せて苦悶したような…顔の玲くんが見えた。
柔和でいつも微笑んでいる白い王子様の姿はなく。
どこまでも大人の男の顔で。
壮絶な色気に満ちていて。
心臓が…やばいくらいに高鳴り、かっと顔にも熱が拡がっていく。
きっとあたしはゆでダコだろう。
視界が滲んでいるのは、熱で目が潤んだせいだろうか。
ああ、もうなんだか…
このまま玲くんに流されていたい。
そう思った時、玲くんの目が薄く開いて、あたしと視線が合った。
――と、思ったら。
突然両手で肩を掴まれ…ぴんと腕を伸すようにして突き放されたんだ。
「……やば」
それだけ言うと、玲くんは俯いてしまった。
………。
どうしたんだろう?
鳶色の髪が邪魔で玲くんの表情がよく見えない。
長い長い溜息が聞こえた。
「……欲に流されるな。勘違いするな。ああ…全然強くなれてないじゃないか、僕。何でこんなに自制心がないんだよ…」
ぶつぶつと、何かを言っているようだ。
「何で…こんなに嫉妬深いんだよ…。とうとう桜にまで…。何で僕はこんなに余裕がなくて、芹霞は余裕で…。これが…想いの違いなのか? ああ、折角強く…なろうとしてるのに…。何で"強引さ"を強めてるんだよ、僕は!! これだったら…嫌われて逃げられるじゃないか。ああ…くそっ…」
やはり何か言っているらしい。
そして、両手で顔を隠すようにして、また一段と頭を垂らしてしまった。