シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「ほほほほほ本物の…葉山…かい!?」
僕は苦笑する。
「ご心配おかけしました。本物の…僕、です」
「……その言い方…葉山、君は……」
八の字眉。その目に浮かぶのは――
「葉山、気持ちは判るけれど、神崎は…」
同情で。
肯定は出来ない。
誤魔化す必要があった。
遠坂由香は、僕の芹霞さんに対する想いに気づいている。
だけど僕は、それに気づかないフリをしていないといけない。
"私"、として。
「"私"は謝らないといけません。手を上げてしまった芹霞さんと玲様に…」
この想いは、駄目なのだ。
持ってはいけない感情。
殺さねばならない感情。
芹霞さんへの想いは、封印すべきものなのだ。
僕はこんなものは必要がない。
この先、2人と共にあろうとするのなら、そこには"私"以外の存在は必要はなく。
ああ、共には…いられないじゃないか。
何を甘ったれたことを考えている?
玲様に手を上げたという、重大なことをしでかしたことに対して、僕は責任をとらねばならない。
「ボクは、2人を呼んでくるね!!」
消える彼女の姿を見て、僕は数回拳で床を叩いた。
やり場のない心のうち。
責任に対する重さを考えるよりも、どうしても…芹霞さんに対する心が消えて行かなくて。
あの…騒がしい馬鹿蜜柑も、こんな気持ちだったのだろうか。
芹霞さんが欲しいと…積極的に行くと覚悟を決めて、それでも櫂様の補佐に回った馬鹿蜜柑。
芹霞さんの玲様への告白を聞いた上で、それでも櫂様のために心を封印したあいつは。
こんなに、苦しい想いを抱えていたのだろうか。
ああ、僕の体の中から、この想いを作る芹霞さんの記憶が、全て消え失せてくれたら!!
僕は…怖い。
弱くなりそうで怖いんだ。
実際、弱くなっていた。
玲様には裂岩糸は通じなかった。
かつて皇城家において赤銅色の氷皇…周涅がしたように、玲様の力は…僕の武器の威力に勝っていた。
玲様は…恋心故に強くなった。
櫂様も馬鹿蜜柑も、強くなって戻ってくると言うのに。
僕は――。
僕は――?