シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
玲様は冷ややかな目をして、片手を上げた。
そして――
パシンッッ!!
私の頬を叩いたんだ。
「1人勝手に楽になるんじゃないよ、桜」
頬が…じんじんする。
だけど…それだけだった。
「罪から目を背け、現実から逃げる方が罪は重い。"無責任"こそが、最大の罪だ。少なくとも、僕はそう思う」
翳った端麗の顔。
「いや…そう、気づかされた。…櫂にね」
そして玲様は、微笑んだんだ。
「何のために僕がいる? お前が惑うのなら、僕はお前を"こっち側"に連れ戻してやるのが務めだろう? 罪深さなら僕以上の奴はいない。それでも櫂もお前達も、僕を見捨てなかった。僕だって、お前を見捨てるものか。それは、僕だけではないだろう。櫂や煌だって、芹霞や由香ちゃんだって同じことを考える。僕達は仲間であり家族だ。縁は…絆は、そう簡単に切れないんだよ」
床に置いた私の指が、小刻みに震えた。
それを発端として、私の体がカタカタと震え出す。
「桜…」
そして、玲様は…そんな私に向けて、美しい笑みを見せたから。
「おかえり」
いつも通りの、信頼を向けてくれたから。
だから私は――。
「……ただいま…です」
頬に伝うは、暖かな雫。
嬉しいと、感動したと…私は、実感していた。
同時に思った。
逃げては…駄目だ。
弱さと戦わねば。
まずは自分自身に打ち勝たねば。
強さとは――肉体だけのものではない。
心もそうだ。
私が、今まで不可解な謎としてきた…感情を生み出す心というものも鍛えねばならない。
押し殺していたはずの心が揺いで、私を弱くさせるのなら。
心身共に強くなるためには、心を強くしないといけない。
逃げることは許されない。
「申し訳…ありませんでした…」
私は――、
僕は――。
玲様の横には、眠る芹霞さん。
綺麗な…綺麗な…
私が、僕が――
欲しいと思う、女性。
もう…見ないフリは、出来ない。
この想いに、決着をつけねばならない。
強くなるために…
それは、許されますか?