シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「玲様!! 頬が!!」

「え!? また腫れてるの!?」


私の声に条件反射的に、驚いた顔をした玲様は自分の頬に手を添えたけれど、


「大丈夫だよ、師匠。ミス桜華のままさ」


それにほっとしたような顔をした玲様。


よかった、治ったんだ。

玲様の美貌は健在だ。

あの"ぷっくり"のお顔では、『ミス桜華』は名乗れない。


「桜華……」


そういえば、玲様だけではなく、芹霞さんも由香さんも桜華学園の制服を着ている。

桜華学園と言えば思い出してしまう。

"悪夢"の横須賀に至るまでのこと。


櫂様は、無事だろうか。


まだ櫂様も馬鹿蜜柑も、裏世界から帰ってきた様子はない。


「そういえば、紫茉さんは…?」


最後の記憶は七瀬紫茉の家だった。

彼女は、紫堂本家にて倒れていたはずで。


「紫茉ちゃんと今、連絡がとれないから…早く合流しないといけないんだ。きっと紫茉ちゃん達も桜ちゃんいなくて今頃焦っていると思うし…。実は桜ちゃんがいなかった時ね…」


今に至るまでの出来事を、芹霞さんと由香さんが概略的に話してくれた。


操られた私が玲様達を襲ったこと。

私に傷つけられた百合絵さんと、心臓発作を起こした芹霞さんの治療に、朱貴によって桜華の第2保健室に運ばれたこと。

そこに氷皇が現われ、玲様に塾に行くように指示したこと。

玲様は、七瀬紫茉と共に朱貴に稽古をつけられたこと。

七瀬紫茉と朱貴は、私の捕獲に神崎家周辺に赴いたこと。

百合絵さんは玲様の指示で、電力確保の為の作業を行っていること。


玲様と芹霞さんと由香さんが赴いた塾には黄色い蝶が襲い、そこに…あの陽斗が現われたこと。


――ニャア。


ああ、化けネコも芹霞さんと共に行動していたらしい。


百合絵さんを模したオッドアイ人形に、3人プラス1匹が皇城家に連れられそうになったこと。

この病院で朱貴の偽者に会い、指示されたこの部屋に私が潜み、同時に紫堂本家に居たおかしな"蛆男"が襲ってきたこと。


ところどころ信じがたいものはあるものの、流れはそんなところで、今しなければならないのは――。


氷皇の示唆により、当初の噂と認識が違う七不思議を再度洗い直す必要があること。

特に、黒髪お下げと眼鏡の桜華の女学生に狙われた猟奇事件には、絞殺だけではなく、頭蓋が割られ脳が取られている事実を見落としていたこと。

また、朱貴の示唆により、あと3日以内で、七不思議…サンドリオンや黄色い外套男を見直す必要があること。

朱貴が七瀬紫茉に飲ませ、私も飲んだことがある『ジキヨクナール』は、九段下の自警団の更正施設にて、"蠱毒"に関係したものであること。

よって玲様達は、そこに近い水道橋で特待生としての塾の手続きをするついでに、その更正施設に立ち寄るつもりでいたらしいこと。
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