シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「違う。副団長の裏に誰かがいるとすれば、それは当主ではないね」
玲様は否定した。
「当主と皇城は、僕の肩書きを利用して、紫茉ちゃんを押し付けてきている。剥奪されれば、大義名分がない。僕が従わねばならない理由もない。まあ…従う気はさらさらないけど」
そう、玲様が超然と微笑む。
玲様は何かが変わったと思う。
ああ、"男"の表情が濃くなったのだ。
自信と余裕に満ちた…櫂様にも繋がるその顔、そのオーラ。
それは朱貴につけられた稽古のせいなのか、それとも心境の変化なのかは判らないが、今では女装が違和感を覚える程で。
こんな短時間で変化出来たのが、芹霞さんへの愛故なのだとしたら、だから実際に強さを身に付けられたのだとしたら。
私も同じように変わりたいと思う。
強さを!!
少なくとも、櫂様が戻られる頃までには、目で判る変化が欲しいのだ。
「師匠、七瀬との合流はどうしようか。携帯では連絡がとれないし…」
そう遠坂由香がぼやくのを聞き、私はふと思い出した。
「あの情報屋がくれたiPhoneは、紫茉さん…持ち歩いていないんですか? それでは連絡がとれないんですか?」
暫しの沈黙。
そして――。
「あたし忘れてたよ…。これこそ、"パンがないならお菓子を!!"という奴だね?」
「ん……芹霞、それはちょっと違うかな」
「師匠、違うのはちょっとどころじゃないぞ? ええと、ボクのiPhoneは銀の袋に…あれ、ないや。置いて来ちゃったみたいだ!!」
「あたしのは……あ、着替えした時、置きっぱなしにしてきた!! 確か玲くんもだよね。見た記憶がある」
「ああ、僕は…余計なことに巻き込まれないように、わざと置いてきたんだけれど…」
「このニャンコが持っているわけないしな…。というか、1人分として割り当てられて、更に使えていたというのがおかしな話で」
「ニャア!!」
「なに威張り腐ってるの、クオン」
「あちゃあ。いつも迷惑千万で何度も投げ捨てたくなったものだけれど、なければないで…なにこの謎の絶望感」
「あの…iPhone、私もってますが。ずっとポケットに入れたままにしていたようで。はい」
どんよりと沈み込む遠坂由香にiPhoneを渡せば、彼女の顔がぱっと明るく輝いて――
「あうっ」
また沈んだ。
「どうしたの、由香ちゃん?」
「そういえば…これ、通話機能が無効化されている特殊なものだった。しかも自機情報のボタンも押せない上、大体七瀬達の番号は判らないし。メルアドも判らない」
今度は芹霞さんまで、項垂れて沈み込んだ。