シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「百合絵さん用に、僕が前に作ったんだ。ガラケーはボタンが小さすぎて、指で押すとどうしても最低2つ押してしまうんだって。決定の丸ボタンも触ればすぐもげちゃうらしいし。だから音声認識が出来、尚且つ特大級のタッチボタンの操作もできるように改造したんだ」
「「百合絵さん、どれだけの指よ……」」
「ん……。呼び出し音はするけど、応答がないな。聞こえないのか、出れないのか。少しかけ続けてみるか」
そんな会話の中、私は1人、陽斗のことを思っていた。
皆の会話に、普通に出て来た陽斗。
陽斗が、本当に蘇ったとでも言うのだろうか。
玲様のGPSが、芹霞さんの昔の携帯を追跡しているというのなら。
その携帯は…2ヶ月前、私達が陽斗の墓の中に入れたんだ。
陽斗が最後まで手放さなかった、芹霞さんのメタルピンクの携帯。
陽斗の想いを形に残そうと、私達は陽斗に供えたんだ。
今頃それは充電が切れて、ただのガラクタのはずで。
それがなんで機能出来る? 何で移動出来る?
墓が暴かれたのか?
いやなにより、皆が幻としてではなく、現実に陽斗の出現を認めているのなら、墓の中の屍は…消えているのか?
この世に出没している、死んだはずの陽斗。
生命を司る臓器を芹霞さんに移植したんだ、普通ならありえない。
「水道橋付近で、陽斗にまた会えるのかな…。会いたいな…。陽斗…今度こそ思い出してくれる……イテッ、なんで太股に噛み付く、クオン!!」
「ニャア!!」
記憶がないらしい陽斗。
芹霞さんの…陽斗を慕う心は、現在進行形で心にある。
それは恋心ではないけれど、芹霞さんにとって、陽斗は…大切な存在なのだ。
――ぎゃははははは!!
ここが池袋であるのなら、近い。
陽斗の眠る場所には。
「玲様、私…雑司ヶ谷の陽斗の墓に行ってみます」
確かめる必要があるだろう。
本当に陽斗が蘇ったのか。
ただの酷似しすぎた別人か。
式神…オッドアイの人形の可能性もある。
――漆黒の鬼雷よー。
芹霞さんへの愛を貫いた…、
あの、金色に覆われた男が本物であれ偽者であれ。
――ぎゃははははは!!
願わくば――
芹霞さんを悲しませる結果にだけはしたくない。
陽斗の想いを…今更、穢したくない。
美しい思い出のまま、残しておきたいのだ。
「陽斗の墓を…暴いてきます」
それは、陽斗の想いに…私が共鳴するからなのか。
不安そうな表情をする芹霞さんを一瞥し、私は頭を垂らした。