シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
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シャコシャコシャコ…。


そうとしか聞こえて来ない、凄まじい早さで回転する…自転車のペダルの音。

チェーンの何処かが錆びているのか外れかかっているのか、とにかく傍迷惑な音を奏でているのは――


「何だかドキドキするね。お墓の中に陽斗がいて欲しい反面、空っぽであって欲しい気もするし…」


前で、上下に体を揺らしながら自転車を漕ぐ芹霞さんだ。

私は、彼女が必死で漕ぐ自転車の後ろの…荷台に座っている。


「桜ちゃん、もし陽斗のすごい"名残"が出て来るようなら、バトンタッチね。あたしの中の陽斗は綺麗でいたいから。どんな現実に転んでも、あの陽斗もどきを徹底調査!! 不用意にあたしの前に姿を現わしたのが運の尽き。追いかけて追いかけて、吐かせてやるわ、ぬははははは!!!」


シャコシャコシャコ…。


……少しずつ、遠坂由香思考に"毒されて"いると思えるのは考え過ぎなんだろうか。


「ニャアアア!!」


前のカゴに"嵌る"ノリがいい化けネコも…そうなんだろうか。

どこまで現実離れする気なんだろう。



シャコシャコシャコ…。


とにかく芹霞さんは必死に漕ぐ。


「鍛えるんだ!!! 足腰強く、鍛錬第一!! 女のど根性、見るがいいわ~!!」

「ニャアアア!!」


シャコシャコシャコ…。



一体、誰に"見せ"て聞かせたいセリフなのかよく判らないけれど。


――桜ちゃん、あの非常識オレンジワンコとは違い、あたし達は常識的な人間だから、バイクかっぱらい無免許で運転するなんてことはしちゃ駄目!!


……別に、提案したわけではなかったけれど。


あの馬鹿蜜柑…、無免許でバイクを走らせたのか。

よく爆発させずに走れたものだ。


――急いで目的地に行く為に、庶民には庶民のやり方があるの!! あたしに任せて!!


そう…豪語した芹霞さんが勝手に"拝借"してきたのは、病院裏手の自転車置き場にあった自転車。


常識的庶民と、非常識駄犬の行動の狭間がよく見えなかった私。


――これはね、入院中に仲良くなった警備のおっちゃんから、警察行き予定の…病院に長期間無断放置されていた沢山の自転車から、こっそり借りたものだから心配しないでね? おっちゃん元気でまだ働いててよかったよ~。


"沢山の自転車"。


使うのなら、どうしてよりによってそんなボロい自転車を選んだのかさっぱり判らなかったけれど。


――ここはあたしの庭みたいなものよ。まだあたし、"道順"覚えているんだから!!

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