シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
どうしてこんな事態になったのだろう。
予定では、雑司ヶ谷には私1人で赴くつもりだった。
少なくとも、
――だったら、桜に雑司ヶ谷は任せて、僕達は先に野暮用を…。
それを了承した玲様だって、そう思っていたはずなんだ。
――玲くん、あたしも桜ちゃんと陽斗のお墓見て行きたい。だから玲くん先に行ってて?
――玲くん。陽斗は…あたしに命をくれた人なの。陽斗の現実をあたしが確かめたいの。陽斗とあたしは一心同体。他人じゃないから、他人事のように等閑(なおざり)にしたくない。玲くん、ここまでに時間かかっちゃってるんだから、ここは手分けして次に進まないと。あたしは桜ちゃんがいるから大丈夫。
雑司ヶ谷が病院から近い場所にあること。
そしてその場所は、芹霞さんは通い慣れた場所であるということ。
芹霞さんが1人で行くわけではないということ。
芹霞さんの目が、強い決意に瞬いていたこと。
そして――、
――玲くんも来たら分担する意味ないでしょ!! それに桜ちゃんだけならいいのに、あたしが一緒だとどうして駄目なの? しかもこんなに近距離で。あたし…そんなに頼りない? 桜ちゃんもあたしも、信じられないの?
その決定打に、玲様は…言葉を飲み込んだ。
――芹霞、僕の腕時計を渡す。ここのボタンを長押しすると、僕の携帯に繋がる。モードを無線にして…ん、これでいい。これで通話出来るから。30分以内に僕に連絡寄越して。もし連絡がこなかったら、非常事態だと思って、問答無用で迎えに来るからね。この時計のGPSを携帯で追跡する。
――そんな大げさな…。
――芹霞!! 今までのことを思い出せよ!! いいかい、これは最大限の僕の譲歩だ。時間内に連絡がなかったら、信頼あるなし関わらず、行くからね?
そう。気づけば――
私と芹霞さんが同じ行動をとることになっていて。
恋人の玲様と芹霞さんが離れて行動することを、玲様が是としていて。
――桜。もし芹霞がショックで発作のような症状が現われたら、これを飲ませて。お前が飲んだものと同じ薬。…氷皇から貰ったものだ。
私のポケットには、玲様がこっそりと渡した錠剤の入った青い小瓶。
ひどく憂えた端麗な顔。
――お前を…信じているから。
それは何に対して言われたことなのか。
玲様に手を上げた過去を持つ、私の行動についてか。
芹霞さんを守ることに対してか。
それとも――
私の想いに気づいたから、とか?
ドクンと心臓が大きく乱れたけれど。
――30分、芹霞を頼むよ?
その真摯な瞳からは、玲様が気づいているとは思えない。
単純に芹霞さんを守ってくれと言われたのだろう。
――お前を…信じているから。
その言葉は、私の枷となる。