シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
前のめりになる車体に、悲鳴を上げた芹霞さんの体が浮いた。
前カゴのネコは、カゴにバッグがきっちりおさまりすぎて自力で抜け出せないらしい。
「くっ!!」
その場で宙に飛び上がった私は、裂岩糸で自転車と芹霞さんを固定して、ハンドルの向きを固定させると、
「ニャアアア!!」
同時にカゴを切り裂き、反動で宙に持ち上がって飛んだクオンバックの取っ手に、
「桜ちゃん、ナイス!!」
私の腕を突っ込んで、肩に掛けた。
…しかしこのネコ、怖い思いをしていたのか…総毛立ったこの毛並みが不憫だ。
顔は見ないでおいてやろう。
私は荷台に立ったまま、芹霞さんと自転車を糸で包んで操作しながら、細く蛇行する長い階段を下りていく。
「!!!?」
その時感じた気配。
この階段の先に…私は――
覚えある気配を感じたんだ。
自転車は止まらない。
引き返せるスペースもない。
見えるのは両側コンクリートの壁と、高い大木だけで。
私の中で、警鐘が鳴り響く。
そんな時、走ったんだ。
無数の銀色の光。
だから私は――。
「芹霞さん、僕に捕まっていて。飛び上がります!!」
大木の枝に糸をひっかけ、そのまま自転車を捨てて飛び上がったんだ。
「ニャアアアア!!」
クオンの吐き出す炎が、さらに追撃してきた光を撃退する。
私は芹霞さんを片手に抱えたまま、クオンを背負って糸を掴んでいる反対の手を動かし、枝上で一回転すると…その枝が折れる前に、そのまま階段の終着地点……地面に着地した。
自転車は横壁にぶつかり、大破する。
地面には…散乱する、焦げ付いた短刀。
それは――
匕首と呼ばれる、小型の暗殺武器。
扱える人間は――否、扱っている人間は記憶にひとり。
コツン、コツン…。
「お久しぶり」
近付いてくる陽気な少年の声。
きっと睨み付けた先に居たのは――。
「元気だった?」
皇城翠の護衛役であり、制裁者(アリス)でもある…凱。
そして――
氷皇と酷似している銀の男。
元制裁者(アリス)№1の実力を持つ――
「BR001…」
私の肩で、クオンの唸り声を聞いた。