シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「――ではなく、その隣!!」
若干…櫂の声が荒げられている。
――取り乱すなよ。
……櫂、ある意味お前も取り乱れたよな。
「なんやねん、なんやねん!!! 普通クマ見たら、ひーちゃんは何処ってなるもんやろ!? それを文句言わずここでずっと待っていた健気なひーちゃん前に、さらにスルー…。ひーちゃんの純粋無垢で繊細なガラスのハートはプローク「うるせえ、黙れッッ!!!」
久しぶりの、矢継ぎ早の…この煩い早口に苛々してくる。
「ひーちゃん落ち込んで、しゅぅぅん」
無視だ、無視!!
「………。仕切り直して、ここの情報システムを構築したのは、気配を完全に消せる情報屋ではなく、その隣にいる奴だ」
明らかに嫌な顔をしたままで、櫂が促したのは、
「ははは。緑皇、我が甥はお見通しのようだ。お前のリクエスト、ここで終わりだ。元に戻す」
その隣にいた、白衣の男。
俺が感じた気配は…この男だ。
アホハットの正体を知り、玲のような気配を持つ男。
パチン。
指を鳴らすような音がして突然に灯がついた。
まだ目が明るさに慣れねえのか、景色がぼんやりと見える。
しかしその中で、くっきりとした輪郭を見せ始めた男の顔。
俺は…動揺した。
柔和な笑みを顔に浮かべる男は、
茶色の髪と瞳を持つ、白皙の男で。
――ふふふふふ。
玲!!?
……ではなく、玲と同じ笑みを浮かべていたのは、
「俺を"甥"とするのなら。
お前は…玲の父親、でいいということだな」
玲をそのまま、年取らせたような男。
白い…ちょっとおじさんになった王子様。
とはいえ、40代くらいのその美貌は、まだまだ現役だろう。
いいなあ玲、お前年取っても…いい男確定だぞ?
「……つーか、玲の親父!!? 玲の親父って…消息不明で」
両親のことをあまり語ろうとしねえ玲。
それでもあいつは父親のことはこう言っていたはずだ。
"酒と女に溺れて、最後には紫堂から追放された"
と。
それは"死"と同じだと、冷ややかに笑っていた玲を思い出す。
否…それは初期の段階だ。
確か、"約束の地(カナン)"で久涅が言ってなかったか?
――玲は…父親を殺した男に傅(かしづ)いている。そして玲をねじ伏せ、手懐けたお前は、その息子だ。
紫堂当主に殺されたはずの玲の父親。
その父親が、俺達の目の前にいる。
なんで裏世界にいる!!?
「はあああああ!!!?」
駄目だ。
俺、激しく動揺。
そして――。