シンデレラに玻璃の星冠をⅢ



「お前は、玲だけの父親か?」


櫂の声音が低いものに変わった時。


俺は思い出す。

"約束の地(カナン)"で、氷皇に見せられたビデオ。


櫂のお袋がこいつとの間の子供を久涅と呼んだ、あの場面。



結局――

櫂や玲、久涅は誰との間に生まれた子供なんだ?



「俺のこの顔に、この色に…見覚えないとは言わせない」




男の顔から、すっと表情が消える。


そして笑みの代わりに出て来たものは、病的にも思えるやつれ。

同時に、そんな頽廃的な顔つきとは別に、鳶色にも似た茶色い瞳がぎらついた。


ふと、玲の心の底に沈んだ時の、狂乱した玲の姿を思い出し、俺は…ぞくりとするものを感じた。

この男の雰囲気は、それと酷く似通っている気がしたんだ。


「ああ。我が愚弟の息子、櫂だろう?」


"愚弟"


それはへりくだった表現ではなく、明らかな憎悪が込められていた。


「玲の人生を狂わせた」


そう口にした男は、嘲るように笑った。


櫂と男は対峙する。

血が繋がる者同士だというのに、感動や和やかさなどは、なにもなく。

アカの他人以上の、冷え切った空気で。



2人は睨み合うように、互いを見つめていた。

敵意を剥き出しで――。




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