シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

手続 玲Side

 玲Side
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「何か…嫌な予感がする」


思わず僕は、心臓のあたりに手をあてた。



「それは、神崎達に何かあったってことかい?」


八の字眉の由香ちゃんが、心配そうな声を投げてくる。



「……判らない」


それが正直な処。


断定出来ない、この嫌な予感。

輪郭が見えないから余計に気持ち悪くて。


僕の脳裏に、消え入りそうな桜の顔が蘇る。

僕に手をかけてしまったと、猛省後に離脱することを覚悟した桜の顔は、決意に満ちたものというより、悲哀の情が色濃くて。

かつて非情と謳われ、鬼雷とまであだ名された桜に、ここまで感情が芽生えていたことを驚き、そして嬉しく思う反面…このままではいけないと僕は思った。

感情があるが故に、桜は消えることを選んでしまう。

桜は昔から、融通が利かないところがある。

操られていた、自分の意思ではないと…割り切ってしまえば楽になれるものを、それを全て自分の"弱さ"に転化してしまう。

だから、それが許せなくなってしまう。


せっかく感情が芽生え始めているというのに、これでは意味が無くなってしまう。


だから僕は――

芹霞を桜に任せたんだ。


確かに芹霞の言うとおり、時間の浪費の解消を避けて手分けして行動する…というのは一理あるものの、そんなたかが数十分の"道草"で今更何が変わるわけでもないだろう。

しかし芹霞もまた、自分だけが"出来ること"を模索しているのも判ったし、桜が立ち直るのに必要なものは、僕からの"命令"という"信頼"であるというのなら。


僕は、愛する芹霞を桜に託すことで、桜の自信を回復させようと思ったんだ。


僕にとって桜は部下であるのと同時に、弟みたいなもので、家族だから。

感情が理解出来ない桜だから、今まで僕はあまりはっきりと好意を伝えたことはなかったように思うけれど、僕は桜を簡単に手放す気などない。

だからこその決断だった。


そうでなければ、芹霞を離すものか。

桜でさえ、じりじりと嫉妬に胸を焦がした後なら特に。


病院から10分程度の距離。

芹霞に持たせた僕の時計。


僕は何度も携帯でその位置を確認する。


大丈夫、芹霞は雑司ヶ谷に向っている。

芹霞を示すマークは動き続けている。


そんな矢先に感じた…嫌な予感。


僕の奥底から、何かを覆そうとしているかの如く、それは膨れあがる。

僕にとって、まるで好ましくない…それは瘴気にも似たような予感。


まさか――。



「……櫂、か?」


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