シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「いやいや、そっちじゃなくて。"狂犬"って仇名されるの、ボク…1匹しか知らないんだけど」
「最近は"犬"の七不思議も流行しているからね。大体"あいつ"、免許持ってないし。やってるのはゲーセンだけだし。あいつがいくら馬鹿でも…」
「そうだよね、ゲーセンで慣れているからって実物を動かせるなんて馬鹿なこと、いくらあのワンコだって思わないよね。偶然だね、あはははは。しかし師匠がバイクの免許まで持っているなんて、驚きだよ」
「そう? 16歳で取っちゃったんだ。年齢的にも制服で乗ってて平気だろう? ちゃんとヘルメットだって、二人で被っているんだし、スピードだって厳守。とやかく他人に言われる覚えはないね」
「ん~。ミス桜華が『安全第一』の"ナナハン"か~。しかも改造。明らかに何処かの暴走族と思われるもの。最高ランクの免罪符1つでそれでスルーされるっていうのもすごい話。更には師匠、ドリルみたいな傍迷惑な音、ぱぱっと直しちゃうし。改造バイクの改造まで出来ちゃうんだ、師匠…」
ブォォォォォ。
「なあ師匠。さっきから神崎達を示すこの●の動きが止まってるんだ。雑司ヶ谷に着いたのかなって地図と照合すると、少しばかりずれている気がするけど…。これは気にしなくてもいいところかい?」
速度あるものを追跡する時、たまにGPSに連動した地図はずれることがある。
しかも僕が見ていた時の、芹霞達の移動速度はかなりのもので。
多分、芹霞お得意の自転車で移動していたんだろうと思う。
止まっている場所は…一体何処なんだ?
雑司ヶ谷…だよな?
「一応神崎に電話してみたけど、また電波が通じないよ。まだかなりあの文字化けメール送られてたみたいだから、電源消したのかなあ、神崎。葉山のも駄目だ」
由香ちゃんに見て貰っている僕の携帯は、時計に連動した"SOS"は鳴り響かない。
ふと、僕ではない誰かに助けを求めているのではないかと思ってしまった僕。
どうしてもあの塾で、電話をかけている芹霞が僕の目の前にいて、僕の電話が鳴らなかったことが心に響いているみたいだ。
だけど、芹霞は僕に助けを求めてくれていたんだ。
大丈夫。
何かあれば、必ず僕に連絡がくるから。
僕を頼ってくれるから。
その時の為にも、僕は高速で駆け付けることが出来る手段が必要だった。
……桜。
芹霞にはお前がいる。
お前がいるから、大丈夫だよな…?
引き返したいのを押し殺し、僕は"信じて"待たねばならない。
それが、"信頼"。
今…危ない目にはあっていないよな?
胸におかしな予感は拡がるけれど。
それが芹霞達のものとは限らない。
「師匠、水道橋に入ったね」
そして僕は、信号機に掲げられた…目的地が記載された標識の下を走り抜けた。