シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「むふふふふ。ありがとう」
「こちらこそ、いつもご贔屓にありがとうございます。代金はいつもの処からでよろしければ、ここに署名を…」
ぽかんとしている僕の前で、男は何かの膨らんだ包みを由香ちゃんに渡し、由香ちゃんが差し出された紙にさらさらとサインをすれば、バイクはあっという間に去って行く。
「ようし、間に合った。さすがは目立つ"安全第一"!!」
ヘルメットを指さして由香ちゃんは喜んでいるけれど。
「知り合い?」
「うん。ボクが緊急時によく使っていた、東京の最大"組織"が抱える、現地に直接駆け付けてくれる超特急バイク便の人さ。さっきメールで注文したんだ。ドーム付近に"安全第一"コスをしているのが目印って。はい、師匠」
このヘルメット…コスアイテムになるの?
一体何を注文したんだろう?
東京最大"組織"って…?
満面笑みの由香ちゃんが、袋から出したものは…
「黒の三つ編みウィッグ。さすがにいつまでも"安全第一"では恥ずかしいだろう? よかったよ、自警団がいるこの状況でも、コスネットclubは健在だった!!」
緊急時があるコスってなんだろうと思いながら、僕は急かされるがままに、しっとりツヤツヤの黒髪で、長くて三つ編みに縛っている、ムレないカツラを装着した。
「うん。これでこそミス桜華。すごく自然に見える高級ウィッグだし、どこから見てもばっちり美少女!!」
破顔する由香ちゃんを見て、何だか僕も嬉しくなった。
……自分の女装(コスプレ)に。
横目にする、巨大な白いドームへの入口。
自警団が派手なものを強制的に規制している現状、今では東京ドームの運営側も、画期的なイベントは極力控えているだろう…。
そうは思えど――…、
『黄幡祭 前夜祭会場』
中のドームへと誘う入口には、派手派手しい造花で飾られた巨大な立て看板。
そこに行き着くまでの外壁には、横一列に貼られた同じポスター。
それは、塾のロビーで見てきた…黄幡会の開催する"前夜祭"告知のものだった。
「なんでドームにこのポスター…。……あ、そういえば師匠、七瀬の友達の"黒々まっしゅ~"晴香ちゃんが言ってたっけ…」
――それは…羅侯(ラゴウ)神の復活を祝う"前夜祭"の方のポスターね。ほら、ここに書いてあるでしょう? ふふふ、どんな奇跡かは見てのお楽しみ。東京の住人は東京都が抽選を行い、抽選に当選したら…東京ドームでその奇跡が間近で見られるチャンスが与えられるの。あたるといいわね。
――そしてそれが終えた次の日、羅侯(ラゴウ)は蘇るの。それが"黄幡祭"よ。
僕が手続きをしていた間、耳に届いたのはそんな説明だったはず。