シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「ええと…このコンビニが地図のこれで…。塾はこれを曲ってすぐの…師匠、塾は多分あそこだ。まずこっちぱぱっと終わらせようよ。それから神崎を迎えに行くなりなんなりしよう。塾の建物は…うん、あそこ…だけど…」
由香ちゃんが、銀の袋から取出した…"入塾のしおり"を見ながら、どもった声を響かせた。
いつの間に、僕が持っていたはずのしおりが、銀の袋の中にあったのか…そんな疑問もわいたけど、今更だろう。
由香ちゃんが指さす"あそこ"は、何だか見慣れた…円状の筒のような建物で…。
その形状は、陽斗が現われたあの塾と同じだが、硝子張りではない。
きちんとした…タイル張りの外壁がある。
「…師匠、この色……」
「………」
本当に"青色"は不意打ちで来るから、今回もそうじゃないかと思わず身構えてしまったけれど、目の前の建物の色は、忌まわしき青色ではなかった。
それに対して安堵できた反面、新たに目にするその色に…やはり警戒心を抱いてしまったのは事実。
「師匠…。この色…。"青"の男と無関係には思えない、あの色だよね。紫堂本家で見たはずだったのに、すっかりボク忘れていたけれど」
「そうだね、"赤銅色"だよね」
青色ではないだけの、胡散臭い――…
紫茉ちゃんの兄、周涅と同じ色。
青色ではないのに、胡散臭さがぷんぷんだ。
こんな色、まず建物全体に使用しようなど、普通は思わない。
「そう言えばさ、神崎が襲われたあの塾で、理事長として七瀬の兄貴の肖像画があったって、神崎言ってたよね? この塾にも周涅が関係しているのだとしたら、どうしてここまでやることがそっくりなんだろうな、氷皇と」
「そうだね…」
僕もそう思う。
氷皇ならまず躊躇なく、どんなに不気味になってもこの建物を青く染め上げる。
…それと色違いなだけだ。
もしもこの建物の設計に、周涅が関わっているのだとしたら。
あの、胡散臭い類型(カテゴリー)というのは、自己顕示欲というものが強烈なんだろうか。
そこまで己の色を見せつけたいのだろうか。
…一体誰に?
「何なんだろうな、あの二人。周涅は氷皇をすごく毛嫌いしていたし、兄弟とかでもなさそうだったし…」
「それに、氷皇にそっくりなのは周涅だけじゃないよね」
BR001――。
煌を勝る、元制裁者(アリス)。
銀色に包まれた…未知数の力を持つ男。
どうしているのだろうか、彼も今。
「彼もまた、何を考えているのか判らないな」
僕らを仕留める力があるのに、完全に仕留めにこない。
皇城次男坊の護衛役…元制裁者(アリス)を引き込んで、何をしようとしているのか。
誰かの指示で動いているのか、自らの意志か。
制裁者(アリス)…。
台場で僕を追い詰めた、凱と雅はどうしているのか。
何故彼らは今、不気味に沈黙しているのか。
何かの意図に、僕達は乗せられて動いているような気がしてやまない。