シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「犬が死んだのは、それを食べて…ということか?」
『わかりませんが、その穴から遠い位置に犬の頭があります。そして…陽斗の墓付近の陥没ですが、微かに…甘ったるい匂いがするんです。お香のような』
「匂い…?」
『屋外で匂いが感じるということは、つい先程までここで何かがあったのかと。ただ犬の死骸は、比較的新しいものとはいえ…数日は経っているかと。そしてその匂いですが、私と煌が木場で潜り込んだあの地下室で、嗅いだような気もするのです。それがなぜよりによって陽斗の墓がある場所からするのか…』
「………」
『結局、陽斗の墓の中身は確認出来ません。しかし、広い敷地内で、陽斗の墓付近だけが抉られているのは…偶然だとは思えません。第三者に、暴かれていたのではないでしょうか』
「………」
『陥没は七不思議の1つとも思えないこともないのですが、暴いた証拠を消すために陥没に似せた…とも考えられます。実際、あれよりは規模は小さいように思えますし、渋谷で陥没の形を"鬼"だと言った芹霞さんは、何も感じていないようです。無論、黄色い蝶も出現していません』
「………」
『とりあえず、今はそちらに向います。もう数分で着きますが…塾に行けばよろしいですか?』
「ああ…そうだね、その方が判りやすいか」
僕は簡単にドームからの道順を説明し、派手なバイクが目印だということを告げた。
『了解しました。オレンジと黒のマーブル模様の大型改造バイク、"玄武、参上"の文字ですね?』
「そうだ」
『なんかそれ、記憶にあるんだけど!!』
芹霞の声が聞こえてきた。
………。
「桜、芹霞に…煌と乗ったことがあるのか聞いてみて?」
『あ、はい…』
そして電話口に芹霞が出た。
『それだ、思い出したよ!! 木場に行くのに、煌が暴走族に名乗って、白昼堂々とかっぱらったの。ゲーセンで鍛えたから大丈夫ってノーヘルで運転したんだよ~。敵にも追いかけられて。よく無事だったよね、あたし達』
絶句する僕を見て、由香ちゃんが苦笑した。
「師匠…。あのワイルドワンコには、常識通用しないから。少なくとも"安全第一"の理性犬ではないと思うよ」
女装姿で"安全第一"を被って速度を守った僕と、
橙色の髪を風に靡かせ、大型バイクを爆走させる煌。
何だろう…この、男としての敗北感…。
僕は項垂れた。