シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

真相 櫂Side

　櫂Side
**********************


目の前の男――。


玲の名残を見せた顔を強張らせた、茶色の白皙の男は。


親父…実弟で現紫堂当主たる…紫堂匡に追放され、そして殺されたとされている男。

少なくとも、"約束の地(ｶﾅﾝ)"で久涅はそう言った。


その久涅の父親がこの男で、その母親が俺の母だという…氷皇から見せられたあのビデオ。

映像と音声が一度に頭に蘇り、例えようもない怒りがわいてきた。


身勝手な親たちのせいで、俺達の置かれた環境が狂ったのだとすれば、そこに"愛"を見せつけたあの映像は、厭わしすぎて。


その"愛"の代償に…俺達は何を支払っているのか。

その"愛"の結晶が、俺達にもたらしたものは何なのか。


俺は、母親には愛情がない。

無論、父親などもっての外で。


だからこの憤りは、両親の愛を信じ守りたいためのものじゃない。

惰弱の俺を見ているだけだった母親が、腹の底で何を考えて誰を想っていたのか、そんなものはどうでもいい。

親父が、俺から何を見出してここまで毛嫌うのか…親父の心に踏み込みたいとも思わない。


だけど。


俺の親父に私怨を向けているこの男が、俺の…血染め石を持つ久涅の父親であるのなら。

ビデオで見せたようなあの"愛"を、玲に向けていなかったことが口惜しくて堪らないんだ。


愛された久涅。

愛されない玲。



「ああ。我が愚弟の息子、櫂だろう?」



その理由が、俺の親父にあるのだとしたら。


「玲の人生を狂わせた」


それを理由に、玲のことで俺は責められたくない。


確かに俺は玲を追い詰めた。

玲の人生を狂わせた。

それは痛い程自覚している。


だけど。


「玲を見捨てた奴に、言われたくないな」


この男は…全てを狂わされた玲を守ろうとしなかった。

一度も玲の前に姿を現わさなかった。

少なくとも、俺の記憶している中では。