シンデレラに玻璃の星冠をⅢ

「玲の境遇を判っていて何もしなかった…それが父親か? 今更…玲の父親面をするな」


結局はこの男が恨む、実弟と同じじゃないか。

助けを求める息子の手を、取ろうともしなかった。

母親によってもたらされた、狂った血の目覚めを極端に恐れる玲から、この男は背を向けて8年も生きていたんだ。


「玲は…久涅から、地位と名誉を奪った。お前と同じ…罪が巡り巡った結果の…因果応報だ」


突如漏れ聞こえたのは、そんな言葉。


「その報いが…今訪れている。そこに親の干渉は許されない。個人が担う、摂理という運命の環を、崩すわけにはいかないのだ」


ここまで――


「死んだら全ては無。しかし玲は生きている。だから、それでいいじゃないか。お前だってそういう結論になったのだろう、櫂よ」


玲に愛情を向けていないとは。


俺のように、厭わしく扱われ、邪険にされているわけではない。

玲以上に、遙かに久涅の方を優遇視しているだけだ。


俺と玲…どちらの扱いがマシかと考えるのは、本当に馬鹿馬鹿しいこと。

どちらの場合でも、親に情など覚えないだろうから。


自分と同じ顔を持つ玲より、違う顔を持つ久涅の方を庇う男。

己の種を受け継いだ証拠を外見に宿していても、オスとしての種の保存本能に逆らってまで、久涅を何故特別視するのか。

そこに固執する理由があるのだとすれば、母親という立場の女に対する思い入れが違うからとしか思えないんだ。

その女との間に生まれた俺には、憎悪を向けられているということは、父親が別の男だから…という単純な説明でいいものなのか。


あのビデオが真実なのだとすれば――。

俺もまた、種の保存本能に逆らってまで、実の親から俺と同じ顔をした…血の繋がらない久涅の方を優遇視されていることになる。


つまりは――。


俺の親…当主の場合は、妻を寝取った姦夫との間の子供を。

その兄の場合は、弟の正妻を堂々寝取り、そして設けた子供を。

どちらも優遇した子供は同じ、自分と正妻との間に生まれた子供の方を…蔑ろにしている。


何だこの茶番。

おかしいのは、この兄弟なのか…それとも紫堂の血なのか。


ひとつ判ることは――、


――お前は、僕の可愛い従弟だ。お前の言葉は信じるよ。


血の濃さなど、愛情の度合いにはなりえない。
< 995 / 1,366 >

この作品をシェア

pagetop