シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
一般的によく言われる父親像が、子供を庇護してどんな外敵をも蹴散らす英雄的存在だというのなら、俺にも玲も…父親という者は存在しないんだ。
信じられる愛情は…培ってきた強い信頼。
少なくともそれは…目の前のこの男に向けられるものではない。
血の繋がりがあるということだけで、都合良く"親子"の関係を持ち出し、押しつけがましいおかしな主張をするのなら、俺は玲の為に戦ってやる。
「それが玲に言う言葉なのか!!!」
俺は声を荒げて、男の胸ぐらを掴んだ。
「櫂、やめろって!!」
そう俺を諭す煌もまた、その顔は険しく。
「こいつは…お前を挑発して、お前の出方を見ているだけだ!!」
にやにやと…玲の顔で笑っている男。
俺の出方を…確かに見ているのかも知れないが、このやけに冷めた目には冗談めいた光は浮かんでいない。
ここに、玲がいなくてよかった。
心からそう思う。
その横で、好奇心を丸出しで、傍観者に徹しているらしい…情報屋こと緑皇。
彼は今、何を思って此の場にいるのか。
「なあ、玲の親父さんよ」
煌が、俺と男…かつて紫堂壱という名前だった男との間に、割って立った。
「お前はどうみても玲の顔だけどよ、なんで久涅の顔が出来上がった?」
不機嫌な顔をしているが、煌は煌なりに感情を抑えているようだ。
以前のようにすぐに手を出さなくなったのは、心が成長したと言うことなのだろう。
「仮に、久涅が櫂の母親似だとしても、
どうして父親が違う櫂と同じ顔になる?」
そして煌は、褐色の瞳を真っ直ぐに男に向けた。
「久遠が記憶している昔の久涅は、櫂の顔じゃねぇ。それに、当主だって緋狭…紅皇だって、血染め石は櫂が所有者だとしてたんだ。そこのからくり、お前知っているんだろう?」
薄く…笑ったような気がする。
そして言ったんだ。
「玲は久涅の為に存在する。そして櫂、お前もな」
屈辱にも思えるその言葉。
途端に冷えた心に、俺はすっと目を細めた。