シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


「その前に。これだけははっきりさせておこう。気づいているようだが、櫂、お前は弟…匡と美由紀の子供だが、久涅は私と美由紀の子供。私は決して弟の妻を寝取ったのではない、美由紀は元々…籍を入れていなかっただけで私の妻だったのだ。後に私は他の女を娶り玲が生まれたが、私の心は美由紀にしかない。私達はずっと心の中では愛し合っていた」


何一つ悪びた様子もなく、堂々言い切るその様に…少し呆れた。

愛し合っているから、久涅の出生は正当であるのだと、主張したいのだろうか。

経緯はどうであれ、別の女を妻にして子供を設けている事実があるのに、別の男の妻となった女を想う一途な心は純真で美しいとでも、言い張るつもりなのだろうか。

それ程想う女が、別の男との間に生み落とした俺に、それを説いて何だと言うのだろうか。

心の中であるのなら、正妻への裏切りとはならず、無論…浮気にも不倫にもならないと、自らの潔白を言いたいのだろうか。

俺にはただ、言い訳をしているだけにしか聞こえない。

ああ、そんなもの…どうでもいい。

ここで推測ではなく、一つの真実が明確になったことに思いを馳せるべきだ。


久涅と俺は同腹の兄弟であり、そして久涅と玲もまた、異母兄弟。

そして俺と玲は、久涅を介せば兄弟ともなるが、俺と玲だけの明確な血の繋がりで言えば…やはり今まで通り従兄弟には違いない。

結局追加された新たな事実は、玲と久涅に血の繋がりがあったということだけで、俺と玲の関係は何も変わらない。

それでいい。


「紫堂は実力主義の家柄だ。私には強い異能力はなく、財閥という権威に興味などない。むしろ異能力というものを生む、特殊な遺伝子というものの存在を人伝で聞いてから、その研究に没頭して…学者の端くれとして生涯を閉じるつもりだった」


ふとした時に見せるのは、玲に通じる穏やかな表情。

攻撃的な眼差しを消さない俺の父親とはまるで違うものだ。


「紫堂財閥に、強さばかりを求めるように変えたのは…匡だ。あいつは多大な力を持ち、それ以上に"野心"があった。それ故に元老院の機嫌を損ねないかと危惧した前代は、次期当主を匡ではなく私に任命しようとした。そして匡には妻を娶らせ、落ち着かせようとしたが…納得しなかったのは、匡だけではなかった。私もだ」


元老院の顔色を窺うばかりの紫堂を、親父が強さ第一の紫堂を作り上げたことによって、元老院に渡り合えるまでの…いくらかマシなものになったと聞いている。

だから親父は、俺が次期当主になる前までは、紫堂の象徴として…俺のように皆から畏怖され賞賛されていたんだ。

その親父に肩書きを持たせないようにするという動きがあったというのは初耳で。

そこに代わって白羽の矢がたてられたのがこの男だということは、この男もまた…今の玲に通じるような大きな力を秘めていたのだと思う。

少なくとも、親父の次に大きな力があったのだろう。
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