シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「それでもいい。私達は切羽詰まっていた。美由紀も了承した。3ヶ月我慢したら離婚は出来る…そう弟が言ったから。そして私は、久涅を助ける為に妻を娶った。高飛車な…私の嫌いなタイプの女だった。それでも愛想笑いで相手をしたけれど、指1本触れなかった。だが…」
翳りの出来た端麗な顔。
何処までも玲の顔をした、やつれた男が続きを語る。
「私が酔っていたのもある。私は…美由紀と間違えて、抱いてしまった。1度だけ。そしてその過ちで…玲を身籠もってしまったんだ」
――僕、父親の愛情なんて、感じたことがないよ。
愛する女を裏切ったという罪悪感で、正妻には無論…玲に寄りつかなくなったのか。
"過ち"。
玲が生まれたことを、そう表現するのか。
俺は怒りに、ぎりぎりと歯軋りをした。
「懐妊を聞いたのだろう、美由紀は…久涅を抱いて行方をくらませた。あいつは心臓が弱い。だから余計に死に物狂いで探したが、美由紀は見つからなかった。そんな時、弟に言われた」
――子供が居るのなら、残念だが…離婚は出来ないな。これは家と家との繋がりだ。
――紫堂の為に頑張ってくれた兄上に、もう1つの願い実行しよう。
「そして匡は、赤子の久涅を人質に私を縛り上げ…目の前で1人の女を抱いた。何度も何度も…狂ったように抱き続けた」
まさか、それは――。
「それは…美由紀だった!!!」
鬼畜な…。
「発狂するかと思う程暴れたが、弟の力には敵わず。私は目の前で、愛する女との子供を助ける為に、愛する女に別の男の子供が身籠もる様を見ていることしか出来なかった」
その目は憎々しい光が灯り、体は怒りに震えていて。
俺は想像する。
俺の立場だったらどうだったろう。
芹霞が他の男に抱かれているのを、ただ見るだけしかできなかったら。
男としての矜持も、夢見た幸せも。
それを支える愛が、木っ端微塵になったのだとしたら。
「美由紀は…私の元には帰らず、匡の正妻となった」
愛を失った男は――。
「そしてお前が生まれた。
久涅と同じ…遺伝子異常で!!!
到底…久涅の器にはなりえなかった!!!」
更に多くのものを失って。
「こんな結末が待っているのなら!!!
何の為に――
一体何の為に私は、美由紀は!!!」
どこまでも呪うだろう。
どこまでも狂うだろう。
愛の破綻は、何処までも出口が見えない絶望の迷宮。
ああ――。
遺伝子異常を引きおこした原因は、この男のせいではなく、愛する女の方だったというのか。
もしも玲に少しでも愛情を注いでいたのなら、遺伝子異常を見せなかっただろう玲の様子に、疑問を感じたはずで。
それを見過ごした故に、生じた新たなる悲劇。
引き裂かれた愛の証は、更なる絶望を与える為に生まれた。
それが――俺の存在。