いじめのその先
「千南、幸恵…。」
私を呼ぶ声に顔を上げると、紗羅ちゃんと立川君が複雑そうな顔を浮かべ立っていた。
紗羅ちゃんは幸恵ちゃんに気付くと近づき、泣き止ませるように背中をさすった。
立川君は私の前に立ち、困った表情をしている。しかし、意を決めるように大きく息を吸って喋り始めた。
「幸恵が悪いな。」
まずは幸恵ちゃんのことについて謝って来た。私は首を横に振り、幸恵ちゃんの方を見た。少しずつ落ち着いてきたみたいで、紗羅ちゃんから受けた水を飲んでいる。その様子に少し安心して見ていると再び立川君が話し始めた。
「今回はここで…その…やることが前から決めてたんだ。」
やること=いじめのことだろう。私は少し視線を落とし、立川君の話に耳を傾けた。
「でももしかしたら千南が咲枝を誘うんじゃないかと、星也が言ってて…そしたら紗羅と幸恵に協力してもらう作戦になったんだ。ある合図で星也達が動くことになってて。」
「それって…お昼食べようの後のトイレ?」
「完全なる合図は決まってなかったが、おそらくそれだと。」
「私…ずっと分からなかった。」
私はこのクラスに会ってからずっと疑問にあったことを問いかけた。
「なんで咲枝ちゃんにあんなことするの?」
立川君の目が揺らいだのを確認した私は、さらに言葉を続ける。
「昨日幸恵ちゃんが言ってた、双子がどうとかと関係あるの?」
「それは…」
それ以降無言となってしまった立川君を見て、これ以上は言えなさそうと判断した私は、とりあえず咲枝ちゃんを探すことにした。
「待って!!」
走りだそうと思った私にかかった制止の言葉。振り向くと立川君が真剣な目で見ていた。
やがて私を見つめたまま口を開いた。
「パーク外の湖。」
「え…」
「咲枝達は、パーク外の湖に居るはず。」
「なんで…」
「本当は嫌なんだ…こんなこと。」
「智一っ!!」
「良いから!!」
紗羅ちゃんが声を荒げたが、立川君がすぐにそれを打ち消した。私は一人状況が飲み込めず、憮然と立ちすくしていた。
すると立川君は真っ直ぐに私を見て、言った。
「俺達…クラスみんな本当はこれ以上咲枝を傷付けるの嫌なんだ。でも敵討ちのためにやっている。」
「敵討ち…?」
「ごめん…これ以上は俺の口からは言えない。…でもこれを止めたいのは本当だ。だけど、俺達には止められない。だから…お願い千南、止めてくれないか?都合が良いかもしれないが、本気なんだ。」
私は戸惑った。でも立川の目は真剣そのものだった。本気なんだ…。私は覚悟を決めたように大きく頷いた。
「分かった。」