サマーバレンタイン【短編】
私は慌てて田中くんの手を制し、先にチョコレートを自分の口に入れた。

溶かして丸めてココアパウダーを振っただけのチョコレート。


「味は……大丈夫」

私が変な味がしないことを確認すると、すかさず田中くんが横から手を伸ばし、チョコレートを奪うと口の中に放り込み、

「ん。これもうまい」

と笑った。


田中くんて、ただ甘いものが好きなだけなんじゃ…って思ったけど、彼の笑顔を見ていたらどうでもよくなってしまった。


もし今夜、田中くんに会えていなかったら、私は今頃1人でどうしていたんだろう。

少なくとも、こんな風に笑ってチョコレートを食べてはいなかった。


今夜だけは田中くんのやさしさに甘えて、彼のペースに流されてしまってもいいのかもしれない。


私は田中くんと彼にめぐり合わせてくれた満月に、そっと感謝した。
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