サマーバレンタイン【短編】
一瞬、気づかないフリをして逃げようか迷ったけど、距離的にも状況的にも不自然なので諦めた。

私がとぼとぼとジャングルジムの前まで行くと、

田中くんはギターを担いでジャングルジムから軽やかに降りてきた。


「…こんばんは。こんなところでライブでもしてたの?」

「違うって。ただの練習。家だとかーちゃんにうるさいって怒られるから。外、気持ちいいし」

と、楽しそうに話す。

田中くんのくりくりした目に街灯の灯りが映し出され、きらきらと輝いた。


「中川こそ何してんの?こんな時間に女の子が1人で歩いてたら危ないじゃん」

田中くんは私に質問と注意を促した。


私はこんな場所でクラスの男子に遭遇するなんて想像もしていなかったので、当然、ここに来る理由なんて考えてなかった。
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