カプチーノ·カシス


「……参ったな」


困ったように、そしてあたしの勘違いでなければほんの少し嬉しそうに、課長が呟く。


「存分に参ってください。それが目的ですから。」


あたしがそう言うと、急に課長が椅子から立ち上がった。あたしはどきりとして、半歩後ろに下がる。


「ちょっと、外の空気吸ってくる。このままここに二人で居たら、どうにかなりそうだ」


そう言って、課長は机の脇にぶら下がっていたビニールをあたしに差し出した。


「今朝、車で出勤してる途中武内さんの告白のことばかり考えてたらいつのまにか会社通り過ぎててさ……それに気づいたとき誰も見てないのに妙に恥ずかしくて、近くにあったパン屋で食べもしないパンを買っちゃったんだ。
食堂はもういっぱいだろうから、良かったら食べて?」


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